第1章 赤い瞳

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 僕の赤い右目。今は色を入れていて、一見普通の紫だけど、それを外せば血のように赤いおぞましい色。  どうして僕はこんな目を持って産まれてしまったのだろう。どうして僕には、人の気持ちが読めてしまうのだろう。聞きたくもない――知りたくもない声なのに、どうして……。 「どうして僕は……産まれて来てしまったんだろう」  僕が母上を不幸にした。僕のせいで、母上は笑わなくなった。僕が居なければ……僕なんか、産まれて来なければ……。 「――ッ」    あぁ……性善説を最初に唱えたのは、一体誰だっただろうか。産まれながらにして、人は善い心を持っているなどと、一体誰が言い出したのか。  そこにいるだけで吐き気をもよおしそうな場所にいて、どうしてそんなことが……人の愛など信じられるだろうか。……信じられるわけがない、誰も、何も、自分自身さえ――。  本当に大嫌いだ。こんな自分が、弱くて、卑屈で、本当に大嫌い。  消えてしまえばいい、こんな自分、消えて無くなってしまえばいい。誰にも必要とされない、誰にも愛されることがない、自分なんて……。  そうして僕は夢に逃げ込む。いつも、一人、ただ……一人で。  そうしなければ、僕は自分でいられなかった。壊れてしまいそうだった。話し相手もいない、そんな毎日に、狂ってしまいそうだった。  媚びを売る為だけに近づいてくる貴族も――上辺だけ取り繕った友達も、僕の目を見なければいいと思って……本当に僕を馬鹿にしている。僕には全部聞こえてるんだ。お前たちの声が。僕を恐れ、ただ利用しようとするその卑しい心の声が。  もう――全部消えてしまえ。全部全部、消えて無くなってしまえ。  この世のすべて、そしてこの僕自身も……闇に呑まれて……無くなってしまえばいい。
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