第1章 赤い瞳

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『――本当に?』  そんなとき、夢の中の僕が問いかけてきた。   『君は本当にそれでいいの?本当にそれで満足なの?』  もう一人の僕は、ほほ笑む。 『僕は知っているよ、君の本当の願いを。……僕には聞こえているよ、君の心の叫び声が』 「……っ」  暗い暗いトンネルを抜けた先、そこに広がる荒れ果てた庭。それを囲むように長く続く――無限の回廊。  そこには怪物が住むという――それはもう思い出せない程昔、母上が読んでくれた絵本に出てきた、孤独な怪物。  ――そこに住む怪物は、寂しそうな顔で、僕にほほ笑む。僕だけに、微笑む。それは優しく、悲しく、深い愛に満ちた瞳で。 『アーサー、僕は君の傍にいるよ。ずっとずっと傍にいるよ。僕だけは何があっても、君の味方でいるから。だから、そんな顔をしないで』  夢の中で、怪物は笑う。 『僕が、いるよ』  何度も何度もそう繰り返す。それは甘く、切なく、僕の心を(とら)えて放さないように――。 『忘れないで、僕がいることを。ずっと、君の傍にいる。……約束、するよ』 「――っ」  僕の頬をそっと撫でる、その怪物は――僕の瞳から絶対に目をそらさなくて……。彼だけは、僕の赤い目を怖がらなくて……。  それが夢だとわかっていても、ただの夢だとわかっていても、僕は何度も、何度でも、彼に会いに行く。 『愛しているよ、アーサー』  僕の望む言葉をくれるのは彼だけ――。夢の中の、もう一人の自分だけ――。 『僕が君の力になるよ。――君のその力、それは王の力だ。偉大な力。君だけに、扱える――』  目の前の自分の赤い右目が、妖しく光り――そして、囁いた。 『アーサー、僕が力を貸して上げる。僕が君を助けてあげる。君の敵になるものを全て、この僕が壊してあげる。――さぁ、この手を取って』
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