第1章 赤い瞳

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 そうして僕の目の前に、ゆっくりと差し出される彼の青白い右手。それは酷く不気味で、まるで死人の手のようだと僕は思った。けれど、不思議と嫌な気はしなかった。  これで、楽になれるのだと――ただ、そう思った。  気が付いたときには、僕はその手を取っていた。瞬間、僕の心に広がったのは――形容しがたい、高揚感。  そして僕は彼に手を引かれ、回廊を抜け出した。暗く長いトンネルを抜け――僕らはようやく、目覚める。  再び僕が目を開けると、そこはいつも通りの裏庭だった。  辺り一面にユリの花が広がっている。それはとても美しく――まるで毒花の様に、狂ったように咲き乱れていた。  僕はその花の中から、一際(ひときわ)美しく咲くユリに手を伸ばす。鼻孔に漂うのは、甘く(かぐわ)しい匂い。それは人の心を惑わす毒の花。 「……君はとてもきれいだね。だけど」  僕の掌の上で咲く、純白の花弁。 「あんまり目立つと、散ることになるよ」  僕は呟いて、その掌を――強く、握りしめた。  ハラハラと、僕の手から白い花びらが舞い落ちていく。寂し気に、悲し気に――。  それは僕の、七歳の誕生日の、丁度前日のことだった。  そしてその日を境に、僕はもう二度と、その裏庭に立ち入ることは無かった。
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