第3章 再会

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「二週間差し上げます。もし本当にその気があるのでしたら、それまでにその子供をそれなりにして、侯爵家の門を叩いて下さい。今あの屋敷には旦那様ご夫妻はいらっしゃいませんので、何のご心配もなさらずに」  ルイスは更に、続ける。 「但し――二週間、それを一日でも過ぎればこのお話は無かったことにさせて頂きます。私は二度と貴方をアメリア様には近づけさせません。勿論ウィリアム様にもです。それを努々(ゆめゆめ)お忘れなきよう」 「――っ」  いつの間にか、全ての表情が消し去られたルイスの横顔。そこに浮かぶ何の熱も無い黒い瞳の冷たさに、ライオネルは思わず息を呑んだ。けれどそれも束の間――ルイスは足を止め、再び微笑んだかと思うと、後ろを振り返る。 「ウィリアム様、私は馬車を捕まえて参ります。こちらで少々お待ち下さいませ」  そう言ってルイスは駆けて行く。馬車は直ぐに止まった。そして――ウィリアムに続き馬車に乗り込むアメリアの華奢な背中を、ライオネルは黙って見つめる。もしルイスの提案を呑まないのなら――これが、彼女の姿を見る最後なのだと理解して。けれどそんなことは決して認められないと……その瞳を揺れ動かして。  馬車に乗り込んだアメリアが、ライオネルを振り返る。その表情は穏やかに微笑んでいたが……その視線が背中に背負われたニックに移されると、途端に泣き出しそうな顔に変わった。そして俯く――アメリア。その表情に、ライオネルは……。  ライオネルとニックをその場に残し、馬車はゆっくりと動き出す。ライオネルはその馬車を――道の先へと消えて見えなくなるまで――ただじっと見送り続けた。
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