第1話 捕獲するのは宇宙人だけじゃない!?

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 というのも、兄の翼は十二も上で、すでに大学で准教授をしているという、それはもう大学生の昴が反論できる相手ではないのだ。しかも自分が通っている大学の、自分の所属している学部の准教授となれば、大人しくしている以外にない。しかし、それはそれ。小説に関して、とやかく言われたくはなかった。 「勉強を疎かにするようなことはないよ。ちゃんと、どの研究室に行きたいかも考えている」  だから思わず、そう言っていた。小説はあくまで趣味ですとアピールする。しかし翼はそこではなく、誰のところだと研究室に関して突っ込んでくる。どこまでも准教授だ。 「二宮先生のところ。別にいいだろ。兄貴のところに入ろうという魂胆はない」  翼に負けたくない気持ちを打ち明けるのが嫌で、昴はそれだけ断言しておく。兄のやる研究室に入るなんて、考えただけで最悪だ。それに周囲から何を言われるか解ったものではない。そして同じ研究分野に進むなんて、尚更嫌だった。だから翼のライバルと呼ばれている、そして別の研究分野である二宮慶太郎の研究室にしようと決心したのだ。同い年で准教授にしてライバル。これほど翼への反撃に向けてのいい人物はいない。 「ちょっと、翼。昴は起こしてくれたの?」  そこに一階から、母親の月岡恵が大声で確認する声が飛んできた。そう言えば、朝ご飯を食べろと言いに来たはずだ。 「起きてるよ」  これ幸いと、昴は椅子から勢いよく立ち上がると、翼の横を通り抜けて部屋を出た。翼はそれ以上の文句を言うことなく、昴の後を付いて階段を降りて来る。 「昴。そう言えば」 「な、何」  まだ注意し足りないのか。ただでさえ、兄の存在は自分の劣等感を煽ってくれるというのに、止めてもらいたいところだ。昴は身構えた。 「人間を捕獲して云々という展開は、使い古されたものではないのか。それにしても、どうして宇宙人が来たら、人間を捕獲すると思っているんだろうか。たしかに第二次世界大戦では、敵兵を捕まえて人体実験をしたわけだが、これからの発想だろうか」 「あああっ」  昴は大声を上げてそれを遮っていた。使い古されたという指摘も腹立つが、何より翼にあの小説を読まれていた事実がいたたまれない。呼び掛けながら、しっかり内容を確認していたのだ。しかもどうして、そういう妙な考察を入れるんだ。 「不思議に思わないか。まさか食料にするつもりだろうか。昨今、系外惑星の発見が続き、地球外生命に関して真剣に議論がなされている。もし高度な知性を持つ生物が宇宙のどこかいるとすれば、これは、深く考えるべき問題だろうか」 「それは大学でやってくれ」  止めても続く翼の考察に、昴はさらなる大声で叫ぶことになったのだった。 「まったく、あの兄貴は。無自覚に人の痛いところを突いてくるし、劣等感を煽ってくれるし、人の小説を勝手に読むし、さらに真っ当な注意までしてくるし。顔は完璧だし、学歴は俺と違ってあの国立大学出身と完璧だし、さらに准教授様だし、勝てる要素なさすぎだろ。何なんだよ」
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