最終話 時には蛇足が重要なこともある

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 これで完全に真相は闇の中となった。が、呆然としている場合ではないのだ。すでに翼は知っているはずだ。すぐに電話を掛けてみる。 「ああ、二宮のことか」 「そ、そう」  すぐに繋がるのはいいが、用件を切り出すのが早い。それだけ翼も焦っているということか。これは翼も予想していなかった出来事なのだ。だから今朝も普通の調子で注意するだけだった。 「今からあいつも家に行くが、お前も行くか」 「あ、うん。それと川島さんにも」 「解った。連絡しておく。正門で待ち合わせよう」  翼との電話を終え、由基に教えてくれた礼を言う。 「ああ、別にいいってことだ。それにしてもあれだな。尊敬していた先生が亡くなるなんて。二宮先生ってまだ三十代前半だろ。何があったんだろう」 「解らない。ともかく、兄貴と一緒に家に行くよ」  そうだ。死因が解らない。掲示板にはそこまで書かれていないのだ。ただ急逝したとの連絡だけである。それと同時に、慶太郎が受け持っていた講義は、他の先生が代行して継続することが書かれているだけである。 「どうして」  直感だが、自殺ではないはずだ。あれだけのことをやる理由が、大学の不名誉な数々だけに留まらなかったということである。ということは、持病を抱えていた。 「本棚に関して、自分で運ばなかったのは」  病気のせいだった。それを翼はあの時に知っていたとすれば―― 「くそっ」  情報はまだ散逸している。昴はそのまま大学の正門へと駆けた。この展開まで予定に入っていたとすれば、慶太郎は何を望んでいたというのか。それを知るのは、やはり翼しかいないのだ。 「行くぞ」  すでに正門にはタクシーが停まり、翼は待ち構えていた。タクシーの中には理志の姿もある。助手席に座り、あちこちに連絡している最中だった。総てが唐突だったことは、このメンツが誰も知らなかったことでも解る。  昴と翼が後部座席に乗り込み、タクシーはすぐに走り出した。車内はそわそわとした空気と動揺が混じっている。 「二宮先生は」 「脳動脈瘤が原因だそうだ」  淡々と翼が教えてくれる。が、顔は真っ青だった。おそらく何か病気を抱えていたのは気づいたが、そんな重大なものだとは思わなかったということだ。だからこそ、今まであの問題を突っ込んで訊くこともせず、いずれ話してくれるだろうと思っていたのだと言う。  しかも、病状が急変したのは昨日の夜だという。大学の会議中、急に頭痛を訴えて救急車で運ばれた。そこから意識不明に陥り、朝には亡くなったのだという。あまりに急なことで、翼たちも大学に来るまで知らなかったのだ。
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