最終話 時には蛇足が重要なこともある

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「あの、僕たちのことは気にせずに」  理志も同じ思いのようで、そそくさと慶太郎が寝室としていた部屋に退散する。二DKに一人暮らし。それが慶太郎のプライベートだったようだ。寝室は片付いていて、部屋にあまり物はなかった。 「躓かないようにってことかな。視野の左側が欠けてない状態だったなら、寝起きとか注意していただろうし」  あまりの殺風景な状況に、理志はそう分析する。研究室が本で溢れ返っていたのとは、あまりに対照的だ。そんな部屋で、翼は何故かベッドの下を覗き込んでいた。 「あった」 「へっ」  ベッドの下から小さな箱を引っ張り出す。それは一辺が十センチほどの段ボール箱だった。翼はそれを躊躇いなく開ける。 「やっぱりな」 「これが、事件を予測できた理由ってことか」  そこには様々なタイプの盗聴器があった。これをどこに仕掛けていたかは解らないが、事件に関する情報はこれで得ていたということらしい。 「おそらくトイレだろう。理系に偏った事件とはいえ、犯人は総て男だった。このことから、男子トイレでの会話を基に事件を察知した。トイレというのは油断しがちだ。不穏な発言を誰かにすることや愚痴を漏らすこともある。そして、トイレを利用したならば、事件について指示することも簡単だっただろう。音声データを聞かせ、そして何らかの助言を行った。そういうところだろうな」  翼は言いつつ、その盗聴器を一度箱の外へと放り出した。そして段ボールの底を探る。 「ん」  箱の端に爪を引っ掛けると、底が持ち上がった。段ボールを一枚、底に被せてあったのだ。その段ボールを除けると、そこにはUSBメモリーが貼り付けられていた。 「これが遺書、になるんだろうな」  それを丁寧に剥がし、翼はそれをポケットに仕舞いこんだ。そして盗聴器類に関して、始末するぞと理志と昴に言う。 「まあ、そうだな」  詳しく事情を知らない理志だが、あっさりと同意してくれた。死んだ後に出てきた証拠。それを使って警察は、書類上は被疑者死亡として送検できる。それを、翼は阻止しようというのだ。あれほど慶太郎が罰せられないことに違和感があったというのに、昴も何も言わずにポケットに証拠を入れていた。 「さて、別れの挨拶をしないとな」 「そうだな」  もう二度と会えない親友。翼も理志もようやくその事実に寂しさを覚えた。そして何かが終わったのだという実感が、昴の心の中を去来する。まだどうしてという部分は解らないままだが、それこそ総てが終わってからでいいものとなっていた。
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