6-119『いつか終わる夢』

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自分のカラオケの出番が刻一刻と差し迫る、それまでは合いの手に徹する事も、この夜の世界でコミュニケーションを取るには大切な事だった、しかし同じC.E.Oのメンバーでも取り分け精神年齢の高い大人に誘われれば、大河だってもちろんそんな北川さんとの会話を選んだ 「ほら前に大河に言った事があるだろ?ほどほどにしろなって、確か知り合って間もない頃だったと思うけど」 「そう言えば俺が遥に夢中でお店に通っていた頃、北川さんにそう言われた記憶があります」 でもその言葉と現在とで、どんな関係があるのか大河にはさっぱり解らなかった、あの時はその「ほどほど」の意味を飲酒の量だとばかり思っていたのに、しかしそうだと決めつけてしまうとやはり矛盾が生まれる、かれこれそれを言われてから今日までに北川さんとは何度も飲んだ、でも飲み方を指摘された事なんて一度もなくて、だけど今になって北川さんが再びその話をして来たとなると、大河はどうしても不思議でならなかった…………… 「はぁぁぁ、まあ俺はそれもそれで良かったのかなって思うけどさ、だけど今になって後悔をしているなら、やっぱり大河はほどほどにしておくべきだったのかもな 」 「後悔?俺がですか?」 「大河の失恋はみんな知ってる、少なくともC.E.Oのみんなは知ってるよ、なにしろ大河のフレンドリーな性格の事だ、もし遥子さんの娘さんと一緒になっていたら、今頃きっと遥ちゃんも一緒に飲みに来ていたでしょうよ、別に今夜に限らなくても頻繁に一緒に来ていた筈だ、でも大河がそれをしないと言う事は失恋は誰の目にも明らか、だろ?」 「確かに、俺も話をした記憶なんてなかったのに、でもさっき丈さんが俺にも好きな女の子が居たって知っていたから、ずっと変だなぁとは思ってたんです」 「でも大河はこのお店に通い続けている、それがずっと不思議だったんだよ、でも俺の中で今夜その理由がハッキリとしたよ、その理由を聞こうとは思わないが、何かしら奈々ちゃんと関わらないといけない理由があったんだろ?」 「確かに……………」 「だから俺は聞きたい、何しろもう時間が無いからよ、詳しい理由はもちろん俺なんかは知らないが、決してほどほどでは済まなかった事を大河は後悔してないか?」 「うーん……………」 北川さんの助言はつまりはそう言う事で、大河は再び深く考えさせられた 深く関わり過ぎるなって、きっとそう言う事だったんですね、アホな俺は今になってやっと理解が出来ましたよ…………… そりゃあここも一応夜の世界なんだもんな、そこら辺一帯に嘘が溢れていてもなんら不思議じゃない、失恋して直後に子供達の存在を知って、あの日強烈に痛感させられたよ でも俺はきっと後悔はしていないんだって、今全てを思い出してもやっぱりそう思う まあ確かに親友としてとっくに失格だ、いつしか俺はあんなにも頻繁に酒を酌み交わしていた大悟と、会う事すら億劫になっていた 何かしら起こる度に感じた罪悪感は半端ではなかった、でも決して後悔はしていない、俺にはそう断言する事が出来る だってこんな事って大悟には絶対に言えないけど、シスターと過ごした秘密の日々って結局まあまあ楽しかったんだもん、誰かに頼りにされる悦びを実感させられていたから…………… あり得ない事の連続で、信じられない事の連続で、息する事すら苦しい夜もあった、思い返すと優奈に「泣き虫」と揶揄されても仕方がない気もする、だってあれからずっと涙なしには語れない日々だったから…………… だって冷静なままでは受け止め切れないよ、言ってしまえば子供ってやっぱり子供じゃん、22歳の俺にはまだまだ関係のない事だって思ってたんだもん、そりゃあまあ例えば高校生だった頃とかに何回か「○○が妊娠したらしいぜ」的なゴシップを耳にした事はあったよ?でもやっぱり所詮はその程度の事で、いきなり3人も育ててるお母さんが、しかもこんなにも身近な所に現れるなんて予想もしてなかったから、まあ年齢的な事を加味すればそれって当たり前の事なのかも知れないけど、とにかく俺には信じられない事の連続だった いやいや普通に考えてヤバいでしょ、だって実家暮らしのこの俺の家に、初めてお泊まりした女の子が奈々香だったんだぜ?つまりはシスターの家の長女ちゃん、どこぞのテレビ局のドラマだよって感じだぜ…………… しかし大河はそこまで一旦冷静に思い出してみても、どうやら後悔はしていない様だった 真面目に自己分析してみても、大悟には非常に申し訳ないが間違った事をしたとは思えない、その時その時必死に頭を抱えて出した答えを、大河は決して誤りだったとは思えなかったし、そして思いたくもなかったのだ 「北川さん、さすがは北川さんですよお見逸れしました、でも俺は後悔はしてないっすよ、確かにお金も時間もめちゃくちゃ使い込んでさ、なんだかんだお店に通う様になるまでは辛うじてあった貯金も、全部シスターと遥を含めてスナック紅に溶かしてしまった、でもそれでも良かったのかなって、そう思うしかないと言うかそう思ってます」 「そっか、なら良かったよ……………」 「ありがとうございます……………」 結局北川さんはそれ以上の事を大河に聞いたりしなかった、恐らくこれ以上の会話は奈々の有終の美に支障を来す可能性があると考えたのだろう、やっぱり今夜も紳士は紳士で、お店の中で延々飛び交う下ネタに心労を重ねていた大河は、やっと幾らかポジティブ寄りの平穏を心に取り戻す事が出来ていた 「ならそろそろ戻ろうか、大河の久しぶりの【紅】、結構楽しみにしてるんだぜ?」 「はいっ!!!」 それに戻りが遅くなり過ぎるとやっぱり奈々を心配させる可能性がある、真央達が居るとは言えその可能性を捨て去る事なんて出来なくて、大河は再び「今夜を最高の卒業式にする」と心に誓うと、大好きな北川さんと共に確かな足取りでスナック紅に戻るのだった…………… 01:10 賑わう卒業式はまだまだ続く……………
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