6-120『Kurenai』

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「紅だぁぁぁ!!!!!」 大きな声がお店の中いっぱいに響く…………… 万を持していざスナック紅に戻った大河にもう敵は居ませんでした、そんなスナック紅で出会った大切なC.E.Oの仲間、北川さんと語らいしっかりとした足取りで戻った大河に、恐れる事など何一つとしてなかったのです となれば後はみんなで一緒に盛り上がるだけでした、あれこれまだまだ問題はあるとは言え、姉にとっても弟にとっても今夜でひとまず一区切り、各々いつまでも感傷に浸っている暇なんてなかったのでした…………… ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 「オラー!!!気合い入れてけぇ!!!」 酒類の種類は問わない、なんでも良いから酒を持って来い、春は来たから酒よ来い、今こそ大河は大好きなお店で大好きなみんなの為に大好きなロックンロールを歌う、そこにはもはやあらゆるマイナスな感情はなくて、ただただ楽しむ事に一生懸命な弟の姿が在った…………… 「よっしゃぁ!!!遂に私のブラザーが本気になったよ!飲め飲め野郎共!!!」 奈々は最高に嬉しかった、30分以上も煙草を買いに出掛けていた本当に心の優しい大河の帰還が、素直な言葉に出来ないくらい嬉しくて、奈々は「ありがとう」の代わりに大河の歌唱を援護した 「お前は走り出す!何かに追われる様!俺が見えないのか、すぐ傍に居るのに!」 そして大河は大好きなX JAPANの代表曲を全力で熱唱しながら、まさにそんな【紅】とは自分達姉弟の為の歌の様だと思っていて、叫びながらも一つ一つのフレーズを噛み締めていた 嵐吹くこの街でお前を抱く…………… 吹き抜ける風にさえ目を閉じる…………… それはまるで俺とシスターだ、こんな小さな町の外れの小さなスナックで、幸か不幸か芽生えてしまった二つの恋、一方は叶いそして一方は散った、でも俺にはそのどちらが幸せなのか解らなくて、目と耳を疑う様な現実に視界を奪われて、そして今ここでこうしている、だってそうしている意味も解らなかったけど、今だけはそれが正解な気がしているから 人並みに消えて行く、記憶の吐息、愛の無い独り舞台、もう耐え切れない…………… そして奈々には大河の歌唱が、援護しつつもその悲痛の叫びが痛くて仕方なかった 純愛なんかとは遠いよ、暴力と家事と育児に追われる毎日、大切な事すら忘れてしまいそうになり、職業柄か嘘を言う事が当たり前になりつつある日々、もう私には【愛】の意味もちゃんと解らなくて、悔しい事に子供達の事を認めてくれないだろう大悟に、優しく抱かれる事が全てになりつつあったんだ でもブラザーを含めたみんなに、今こそ大切な事を思い出させてもらっているよ 私ってとっても愛されていたんだ…………… 飲んでばかりで説得力なんて皆無かも知れないけど、私はハッキリと今そう感じている 下ネタばかりだけど私の為に大枚を叩いてくれる熊ちゃん、大好きだよ…………… 積極的に絡んでは来ないけど、私の代わりに穏やかな眼差しでブラザーを見守ってくれている健さん、大好きだよ…………… 「煙草を買いに行く」なんて古典的な嘘を言ったブラザーを心配して、様子を伺いに行ってくれた北川さん、大好きだよ…………… 何かを察しながらも「いぇーい!」って、「最高だよっ!」って、一生懸命にこの場を盛り上げてくれる丈君、大好きだよ…………… それに女の子のみんなも大好き、最初からずっと一緒の梓ちゃんも渚ちゃんも、もちろん優奈んも美保ちんもみんな大好き、それから真央も健太郎も大好き大好き大好き…………… 愛の無い独り舞台なんて私の妄想だったのかもね、旦那からの信用なら皆無、彼氏からもあれこれ疑われがち、でもスナック紅のみんなはそんな私の事をいつでも肯定してくれる、だからみんな大好きだよ…………… 紅に染まったこの俺を、慰める奴はもういない、もう二度と届かないこの想い、閉ざされた愛に向かい、叫び続ける…………… 哀しい歌詞を自分に当てはめるのは弟ばかりか、奈々はそんな弟に全力で歌ってもらえるだけでも、孤独なんかではなかった…………… ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー そうしてやがて大河の熱唱が終わる頃、奈々の瞳からは感動の涙が溢れていた…………… 「みんな最高!みんな大好き!!!」 奈々は心に沸いた優しい悦びを、言葉に出さずにはいられなかった 「最高って言うならこっちの方だぜ!今こそ大切なシスターの有終の美を!世界で一番騒がしい世界で一番酒臭い卒業式を!俺達がっ!校長先生だぁぁぁ!!!」 二日酔いなんて恐くない、二日酔いが恐くて酒が飲めるか、頭の中に余韻として流れるは激しくも優しい愛に溢れたメロディー、姉弟もさすがにこの時だけは素直だった……………
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