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「貴方には会えなくなります。幕府より許しを得ましたから、明日にでも国表へ帰らねばならぬのです」
「そんな……。そうなのですね」
富乃は若侍の手を取り両の手で包むと、自分の方へ引き寄せようとした。それを若侍は拒むように力を込めた。
「わたしの様な不浄な女子は汚らわしいとお思いなのですね」
「いいえ、そんな事は思ってもおりません。貴女は美しく聡明な方。私には眩しすぎる程です」
富乃は手を自分の胸に当て若者の手を握り締めた。
「ならば何故、わたくしに触れてはくれませぬ? 何故、自分のものにしようとはなさらないのです?」
見詰め合う二人の瞳が潤み、富乃の頬に涙が伝った。
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