二幕

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二幕

 貧しい百姓家に連れて行かれた富は、家の者に持ち物を検められ、持っていたお守りは取られた。朱色に金の刺繍が、家の者の目に止まったからだ。中には母が何かを入れていた様に思う。だが今更、考えてもどうしようもない。家の者に字が読める者は居なかった。    村の名主らしき者のところに連れて行かれた。名がわからぬと言うから、よい器量と仕立ての良い着物を着ていたので、富とつけられた。着物は直ぐに金に換えられてしまった。  富はこの頃の事も良く覚えてはいない。覚えて居る事といえば、家の外で鶏が飼われていた事くらいだ。鶏は百姓の家に飼われ、其処を自分の家と思い、逃げもせず毎日土間を(つい)ばんでいた。
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