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暫くして、若侍が長く顔を見せない日が続いた。もしや、ご病気ではないかと富乃は大変心配した。お屋敷に店の主人がお伺いを立てると、国許のお父上が病に倒れ、幕府に帰国のお許しを貰うまでは会えぬと返事が返って来たのだという。
暫くして、久しぶりに若侍が店を訪れた時、富乃の頬はこけ、やつれた姿を若侍にこそ心配される程であった。
「心配を掛けて済まなかった。斯様な事情ゆえ、家中の者に手紙さえ止められてしまってな」
「わたしの事はよいのです。それよりもお父上様のご容態が心配でございます」
「父上はもう助からぬであろうと、医者は申しておる。しかし、これも天の定めでありましょう。わたしが後を継ぎ、安心してあの世へ旅立てるのですから幸せなのかも知れません。ただ……」
「ただ?」
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