序幕

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 それからは何も覚えていない。ただ、頭の遥か上まで緑に囲まれた中を、道なき道を歩き、落ち葉の中を這い、転がっていった。どれ程の時が経ったのか、深い深い竹の林の中に光が差し込み。見知らぬ人の姿らしきものを見かけると、富はただ大きな声で泣いていた。必死になって泣いていた。  富を見つけた百姓は、近隣の貧しい村の者で竹細工に使う手頃な竹を探しに竹林を訪れていた。高く太い立派な竹では硬く細工がし難い。だから、まだ若く持ち帰るにも手頃な、細く低い竹を探しに来たところだった。
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