現世最後の日(2-1:叱られてばかり)

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現世最後の日(2-1:叱られてばかり)

 オグモスが帰ってきたことについては、もう認めるほかないが、それでなにもかも諦めてしまうようなアシスでもなかった。 「父さん」  オグモス、シレリアナ、それにアシス。親子水いらずの食事を淡々と取っている最中に、アシスは思い切ってオグモスに呼びかけた。  オグモスの、スープをすくっていた匙が止まった。 「なんだ? アシス」  オグモスは、ただでさえ顔付きが厳めしい。目つきも油断ない鋭さを常に光らせているので、こんな何気ない返答さえ威厳を放ってしまう。  初対面の人なら、ここでたじろぐところだが、アシスは、ひるむことなく話を切り出した。 「俺、午後から約束してるんだ。勉強、休んでもいいでしょ?」 「約束?・・・アシス」  オグモスの眼光に、怒りに似たものが混じった。こうなると息子のアシスだって、ちょっと腰が引けてしまう。 「今日はまだ、休みじゃないと知っているだろうに! 次の休みまで待つんだ」  オグモスには、融通だの妥協だのという言葉が一切ない。それは、仕事への完璧主義を意味し、己への潔癖さを意味し、息子の目には、頑固でなんの面白みもない中年親父に映るのだった。 「でも、もう約束しちゃったんだよ。一日くらい、いいじゃん」  頭ごなしに否定されて、アシスとしても勘に触ってくる。ぶつぶつと反論を試みた。 「一日だって大切だ。勉強はいくらしても、しすぎることはない」  オグモスの口癖が出た。  アシスはうんざりした。耳にタコが十はできているセリフだ。『中庸』という言葉を知らんのかと言ってやりたい。が、逆鱗に触れるのはごめんなので、アシスはあえて指摘しないことにしていた。 「お前は、利発な子だ」  オグモスは、決してお世辞は言わない。こんなふうにきっぱり断言されると、アシスも悪い気はしない。  だが、 「将来は医者になるんだから。俺も、母さんも、街中のみんなが期待している。それに応えるのがお前の務めだし、そのために今、お前がしなくちゃいけないことは勉強だ」  こう言われると、アシスはかちんときた。
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