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現世最後の日(2-2:叱られてばかり)
よく聞かされている内容なのに、毎回頭に血がのぼる。
俺の人生は、俺のものだ!
なのに、勝手に将来を決めんなよ!
束縛と圧力が一気に押し寄せる。アシスは、自分の未来が既に決め付けられているような、例えようのない不安を感じた。
「そんなの、知るかよ」
口調に反感をみなぎらせて、アシスはオグモスをにらんだ。
「この街には医者がいない。お前は、期待の星だ。一身に期待を背負ってるんだから、裏切るんじゃない」
オグモスも、言葉がとげとげしくなってきた。持ち前の威圧感も冴えてくる。
「街に医者がいないのは、俺のせいじゃない! なのに、なんで俺が責任取らされるような言い方されなきゃなんねえんだよ!」
「医者は、どの街にも必要だ! けれど、誰でもなれるものじゃない。お前は、なれるだけの賢さがあるんだから、がっかりさせるな!」
「勝手にがっかりしてりゃいいだろ! 俺は知らねえよ!」
「自分の才能を無駄にさせておく気か? 頭を冷やせ!」
「そっちこそ! 俺の話を聞きもしないくせに、あれこれ言うな! やってらんねえよ!」
もはや食事どころではない。オグモスとアシスの視線はぶつかりあって、火花を散らしている。シレリアナは口を挟めないまま、なるべく静かに食べ物を咀嚼して、二人を交互にちらちらと見やった。
「とにかく、勉強が前々から決まってる予定なんだ。外出は許さん! いいな!」
アシスは肯かない。いいわけがない。
「分かったのか?」
分かっている。相手の横暴な指図は。
けれど、納得がいかない。従う気には絶対なれない。
「分かったら、『はい』とか言ったらどうだ!」
言えるもんか。こうなったら、もうあとには引けない。自分の立場を意地でも通してやる。
でも、どうしたらオグモスの目を盗んで、アヌーシュカに会いに行けるんだ?
仏頂面で感情的になりながらも、アシスは、けっこう冷静にオグモスを出し抜くすべを考え始めていた。
その時、
「親方!」
オグモスの弟子の一人が、血相を変えて部屋の中に飛び込んで来た。目をぎょろりとひんむいて、ぜえぜえと息をきらしている。その手には、くしゃくしゃになった一枚の紙片が握られていた。
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