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現世最後の日(2-3:叱られてばかり)
「騒々しいな、食事中だぞ!」
オグモスの視線が、アシスから弟子のほうに移った。
「す、すいません」
「もういい。なんだ、なにがあった?」
オグモスは、一瞬で冷静な仕事人の顔になった。アシスとの口論などなかったかのように落ち着きを取り戻している。
「こ、これ見てください!」
男は、幾重にも皺の寄った紙片を、精一杯きれいに広げてみせた。オグモスは、それを覗き込んだとたん、眉を吊り上げ眼を見開いた。
「なんだ、これは? 一体どういうことだ!」
「アントリーグのヤツですよ! あいつ、また真似しやが・・・失礼、親方のを模倣したみたいで、だから、急いでご報告に!」
アシスもシレリアナも、プルプル指の震えているオグモスを刺激しないよう、こっそりと紙の中身を見た。
そこには、新しい金細工が宣伝してあった。なるほど、斬新だし、美しく、品もある。
けれど、どこか洗練しきれていない。
なぜなのか、二人にはすぐに分かった。一週間ほど前に、オグモスがデザインして売り出した品をちょっとだけ変えている、いわば偽物だからだ。
「アン・・・! あいつ、また俺の真似をしやがって!」
オグモスはがたんと席を立つと、ぽかんとしている三人を残して、さっさとダイニングから出ていった。
シレリアナは、すぐに我に返ると、慌ててオグモスのあとを追った。
「オグモス! どこに行くのです? まだ・・・」
「アントリーグに抗議してくる! 早いほうがいい」
「でも、お食事が済んでからでも・・・」
「こんな、なめた真似されてみろ。食事なんか喉を通るもんか!」
オグモスは憤慨しながら、素早く出かける支度を整えた。シレリアナはそれ以上言っても無駄だと悟り、あっさり引き下がった。
「とにかく、帰ったら食べるから。アシスと先に済ませててくれ」
ほんの少し自制心を取り戻したか、オグモスは事務的な口調でそう告げた。
「はい」
「・・・アシスは」
「はい?」
「なんだって、今日、出かけたいだなんて。いつもは黙って勉強してるじゃないか」
あれこれ不平不満はありつつも、確かにアシスは、言い渡されたスケジュールにしなやかに従っていた。
「アヌーシュカでしょう、きっと」
「アヌーシュカ?」
「暇さえあれば会っています。今日もそれでしょう。二人とも、いちおう」
「年頃、か?」
シレリアナは、小さく二つ肯いた。
「三時になったら・・・あ、いや、三時まで好きにさせてやれ」
なんの感情もこもらない調子で、オグモスは、条件付きだが許可を出した。それから、「出かけてくる」と言い残し、戸外に出ていった。
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