謎の男

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 真夏だというのに黒いシルクハットに黒いタキシードに黒いエナメルシューズ、おまけに黒いマントを身に着けた謎の男がアメリカで一番暑いアリゾナ州はフェニックスの地に何故か汗一つ掻かずに颯爽と降り立った。  飛行機から?否、空港じゃない。じゃあヘリコプター?否、違う。じゃあ気球?否、違う。じゃあ、パラシュート?否、違う。じゃあ、グライダー?ハンドグライダー?パラグライダー?否、違う。じゃあ、何だよ、UFOかよ?まさか、では何から?神出鬼没だからそれも謎、正に謎の男。  更に謎な事に謎の男はスラム街に出向くと、人種差別に苦しむ黒人たちの前で黒い丸薬を一粒掲げてこう言った。 「これを三つ飲めば人種差別に遭わなくなるぞ!」  すると、多くの黒人は笑い飛ばし、ファッキンボーイ!クレイジーボーイ!中にはsillyやstupidという言葉を使って馬鹿にする声が上がる中、サムという黒人が叫んだ 「そんな薬があるものか!」 「ではこの黒ネズミに」と言って謎の男はもう片方の手で持っていた黒ネズミに一粒黒い丸薬を飲ませると、虫篭に黑ネズミを閉じ込めて言った。 「これを持ち帰ってみなさい。さすれば翌朝、人種差別に遭わなくなる理由が分かるであろう!」  差し出された虫篭をサムが不審げに進み出て受け取った。  翌朝、サムは起床して早速、虫篭の中を見ると、虹彩が眼底の血液の色を透かせ瞳孔と共に淡紅色になり、体毛が真っ黒から真っ白になったネズミ、つまり黒ネズミが白ネズミに変貌しているのが分かった。  で、サムは人種差別に苦しむ黒人仲間を集めてそれを見せると、「OH!アメージング!」だの、「OH!アンビリバボー!」だの、「WOW!ザッツグレイト!」だのと黒人たちは口々に驚嘆の声を上げ、「真っ白になってる!あいつが言っていた訳が分かった!」と合点が行った。 「しかし、あいつを訪ねようにも居所が分からないよ!」と一人の黒人が言うと、「マジで受け止めてなかったからそこまで聞くのを忘れていた。しまった、オウマイゴット!」とサムが叫んだところで何処からともなく謎の男が黒いマントを翻しながらやって来てこう言った。 「どうだね、納得できたであろう!」  すると、黒人たちは驚きながら、「Hmmm!アイシー!」と納得して、「ユーアーグレイト!ギブミ―ザ・ピルズ!」だの、「ギブミーマイフレンド!」だのと口々に言った。 「よし、只でやる」と謎の男は言うと、サムに黒い丸薬が沢山入った薬瓶を与えた。「それを皆で分けよ。三つずつにだぞ!」  果たして黒人たちは喜んで言われた通りに三つずつに分けて飲んだ。  翌朝、黒人たちは目が覚めると、肌が白くなっていることに気づいて、それぞれ元々陽気なだけにダンスを踊るように喜んだ。  中には白人の観点から見てもとても美人に生まれ変わる者もいて抃舞して喜んだ。  しかし、皆、外に出ると、朝日をとても眩しく感じ、視力が著しく低下していることに気づいて愕然とした。  更に悪いことに短時間、日に当たっただけで皮膚が真っ赤になってひりひり痛み、行く行くは皮膚癌にかかったり謎の男にサブサハラに連れていかれアルビノ狩りに遭ったりして早死にした。  なので美人薄命という言葉が生まれたりしたが、それは置いといて実は謎の男が只でやった黒い丸薬にはメラニン生成に不可欠なチロシナーゼを死滅させる成分が入っていたのだ。  つまり、そんな丸薬を作ることが出来てアルビノになった黒人を空飛ぶ白骨馬でアメリカからアフリカに運ぶことが出来て黒人たちの死期を早めることが出来た謎の男とは、死神の化身だったのだ。
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