小微助

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 梅雨のじめじめした日曜日の昼間も男は街中を小山が揺るぎ出たように歩いていた。  三つ巴模様の入った浴衣を纏い、便々たる布袋腹を突き出し、宛ら巡業の気晴らしにぶらぶら出歩く力士のような風情もあるが、その実、妻を憎々しく思いながら少しでもやせようとしているのである。  この男、小微助と言って、その名の通り短小なものを股間に付けていた。  その為にいつも嘆いていて妻に馬鹿にされるのもその為だった。  彼は肥満体にありがちな大変な汗かきだから横町を抜けた時には蒸し暑い陽気も手伝って汗をだらだら掻いていた。  郊外に出て小道を歩いていると、林近くで八つ手が目に留まり、珍しく八つに裂けている葉を発見した小微助は、これは縁起がいいと思った、その直後、俄かにどんより曇って来たので上空を見上げた。  すると黒い雲の切れ間から何か現れたかと思うと、顔が赤く鼻が長い、山伏の格好をした大男が背中に生えた両翼を横に広げながら空中滑走して小微助の目の前に舞い降りた。  「よう!関取!わしと一番相撲を取ろうか!」  小微助はこれは昔話に出て来る天狗ではないだろうかと思い、そんな者が実際に現れ喋って来たことに対し、びっくり仰天しながら何度も目をこすって見るのだが、矢張りどう見ても天狗だと思った。 「どうだ?取るのか取らんのか!」 「お、俺はこんななりだが、力士じゃない。只のサラリーマンだ!」 「只のサラリーマン?そうじゃなかろう、お前みたいなデブは兎の毛で突いたほどと言ったら言い過ぎじゃが、あそこが妙に小さいものじゃ。どうじゃな、図星であろう。」 「い、いきなり出て来て、而も初対面で何だ!その失敬極まる言い草は!て、天狗だろうが何だろうが言って良いことと悪いことが、あ、ある・・・」 「ふふふ、随分と威勢が良かったが、尻すぼみになるところを見ると、図星のようじゃな。」 「・・・」 「ハッハッハ!恥ずかしがりよって、お前、わしと会う前、随分と景気の悪そうな浮かない面をしておったが、その理由を当ててみようか!」 「えっ・・・」 「ヒッヒッヒ!また、俯きよったな、お前、あそこがちっちゃいもんじゃから妻にいつも馬鹿にされておるんじゃろう!」 「・・・」 「ハッハッハ!すっかり沈んじまった、これまた図星のようじゃな!」 「・・・」 「まあ、そうしょげるな、わしはお前の心を読んだように神通力を有しておっての、お前のあそこをでかくする方法だって知っておるのじゃ。」 「えっ、とおっしゃいますと・・・」 「ほっほっほ!コロッと態度を変えよって話に乗って来たな、ではなあ、この羽団扇を貸してやるから、これのな、表側で扇ぎながら、ちんちんでっかくな~れと唱えるのじゃ。するとな、一物がぐんぐん伸びて来るのじゃ。」  ほれ、やってみろと羽団扇を渡された小微助は、恥ずかしがりながら、その様にしてみると、確かに一物が伸びて来てパンツから食み出してしまった。 「あんまり伸びて困るんじゃったら裏側で扇ぎながら、ちんちんちっちゃくな~れと唱えれば、一物が縮むのじゃ。」  小微助は言われた通りにしてみると、確かに縮んで元通りになった。 「どうじゃ、使い方が分かったか?」 「はあ・・・」 「よし、では、今晩辺り、それによって伸びた一物で妻をいかせてやって見返してやれや!」 「は、はい!」  すっかり元気づいた小微助を見るや否や天狗は勢いよく飛び上がってぐんぐん上昇して黒い雲の中に消えてしまった。  その晩、小微助は普段の性交で、何であんたのはそんなにちっさいの?何にも感じないわ、ふふふと馬鹿にする妻を羽団扇によって伸びた一物で、いかしまくり、何であんた、そんなに大きくなるようになったの!もう堪らんないわ!とメロメロになった妻を見て初めて満足させられた喜びに湧き立ち、大興奮してもっと伸びたら自分の虜になるだろうと思って羽団扇を使って更に伸ばしてやってみたら妻が更にメロメロになったので興奮がエスカレートして見境が付かなくなって羽団扇で更にぐんぐん伸ばして行って知らぬ間に妻の膣、子宮、卵巣を突き破って行って気づいた時には妻が口から血の混じった泡を吹いて死んでしまっていた。  その自分が犯した罪悪の愚かしさに完全に正気を失った小微助は、うわー!と叫喚して蹶然と立ち上がった拍子に長々と伸びていた一物が膣の出口辺りでぽきっと折れてしまった。  その余りの激痛に、「うぎゃー!」と絶叫した小微助は、大事なものを二つ失ったショックですっかり絶望して狂いに狂ってその儘、狂い死にしてしまった。  この事態を予知していた天狗は、元の死神の姿に変化(へんげ)して二つの魂をしめしめと掻っ攫って行った。
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