偶然出会ったあなたへ

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偶然出会ったあなたへ お元気ですか。私のこと、覚えていますか。 あなたと私が出会ったのは、この手紙を書いているちょうど一年前ですね。 私はあなたと出会うまで、「偶然」のすばらしさをこれっぽっちも知りませんでした。 この世界には必然なものなんて何もない。 宇宙が生まれたのも地球が生まれたのも、そして私が生まれたのもすべて偶然で、本当は宇宙がなくたって地球がなくたって私がいなくたってこの世界は何事もなく回っていた。 私たちが生まれた意味なんて何もない。 偶然通うことになった学校にも偶然働くことになった職場にもなんの愛着も持っていない。 偶然仲良くなった友だちも偶然愛しあった恋人も一度離れれば忘却の彼方へと消えていく。 あの日、偶然立ち寄った小さな島の波打ち際で佇むあなたに私は偶然出会いました。 島のこと、海のこと、飼いネコのこと、あなたはたくさんのことを私に話してくれました。最後にあなたは私にこう言いましたよね。 「今日ここであなたと話せてよかった。」 あのときの私にとって小さな島であなたと話した出来事は、意味のない偶然でしかなく、すぐに単なる過去の出来事となるはずでした。 しかし、何日経ってもあの日の出来事は思い出に変わることはなく、私の中で生き続けました。ほんの小一時間ほどの名前も知らないあなたとの何気ない会話は私の中で大きな意味を持ちました。 あの日の出来事は、「偶然」の産物だったのに。 あれから私は偶然生まれたこの星で偶然であった仲間たちと、たくさんの「偶然」に満ちた人生を満喫しています。 偶然ではあるけれど、私は生きる権利を与えられたのだから。 もしも偶然あなたと出会わなくても、私は今までどおり何不自由なく暮らしていたと思います。 それでも、私はあなたと出会えた「偶然」に、そして「偶然」に感謝するようになったという「偶然」に喜びを感じています。 私はあなたにこれだけは伝えたい。 「あの日あの場所であなたと話せてよかった。」 この手紙の入ったビンが偶然小さな島に流れ着き、偶然あなたが拾って読んでくれることを願っています。            偶然出会った私より
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