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ジュリィはその日、ある人の墓参りに来ていた。
(エドおじさん、このお花好きだったのよね。喜んでくれるかな)
腕いっぱいに大輪の白百合の花を抱え、墓地の青い芝生の上を歩いていく。今日も暑くなるだろう。そう思わせる夏の朝だった。
ジュリィは目的のお墓の近くまでやって来て、はたと脚を止めた。見知らぬ青年がエドおじさんの墓前に立っていたからだ。はて、いったい誰だろう。おじさんは独り身で家族も親戚もいないと言っていたはずだが。すると、友達かしら。いやしかし、それにしては歳が離れすぎている。せいぜい20歳くらいにしか見えない。私と同じくらいじゃないか。
そこまで考えて、ジュリィはひとり苦笑いした。それを言うなら私もエドおじさんから「私の一番ちっちゃな友達」と言われていたではないか。きっと彼も歳が離れた友人なのだろう。
「おはようございます」
ジュリィは青年に近づき、にっこりと挨拶した。
「……おはようございます」
「あの、私、エドさんの友人だった者です。歳はだいぶ離れてますけど。絵のモデルをしたのがきっかけで、ずっと仲良くさせてもらってました」
青年が怪訝そうな顔をしたので、ジュリィはそう説明した。
「そうでしたか……。ああ、すみません。どうぞ花を置いてください」
青年はそう言って立っていたところから1歩下がった。
「こちらこそすみません、ありがとうございます」
ジュリィは白百合の花を墓に手向けた。
「……綺麗な花ですね」
青年が褒め言葉に、ジュリィはほほ笑みを返した。
「エドおじさん、この花が好きだったんです」
「……エドおじさん?」
「ええ、私はこの人のことをそう呼んでました」
ジュリィは白い墓に目を落とした。
「『この清楚な感じが、とても好みなんだ』って……。私もエドさんが出会ったのも、白百合の花がきっかけなんです。私の家は花屋をやってるんですけど、小さいころ私が白百合の花が活けてあるバケツの横に座り込んでいるのを、とてもいい風景だ、絵に書かせてくれないかってエドさんが言ってきたのが出会いだったんですよ」
「そうだったんですか……」
「ええ、それで彼が亡くなるちょっと前までモデルをしてました」
とたん、ジュリィは急に自分の視界がかすんだのを感じてびっくりした。涙がにじんできている。もうエドおじさんの死から半年は経つというのに、まだ悲しみの涙は尽きていないらしい。
それはまだいいとして、知らない人の前で涙をこぼしてしまうのは少し恥ずかしい。慌てて目をこすりながら、気を取り直そうと話題を変えた。
「あなたは? なにがきっかけでエドさんと出会いましたか?」
「僕は……」
青年は何故か言葉につまった。答えてくれるには、長い間を要した。
「……僕は、息子なんです」
「……え?」
ジュリィは青年の言葉が上手く頭に入って来ず、きょとん、となった。
「エド・モーガンの息子なんです、僕は」
「……えええっ!?」
ジュリィのすっとんきょうな声が、静かな墓地に響き渡った。
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