第1章 現在・僕

7/26
1818人が本棚に入れています
本棚に追加
/680ページ
 そうなると、僕は軽々に、“許さない”などということを口に出して言うことはできない。場合によっては、僕が、“許さない”と口に出した瞬間に、美穂の方から、離婚を切り出されるかもしれない。だけど、僕は美穂と離婚したくなどないのだ。  もちろん、美咲のために離婚するべきではないとは思う。だけど、何より、僕自身が、彼女のことを愛しているし、彼女と一生を添い遂げたいと思って結婚したのだ。  もしかすると、美穂は、僕のそんな気持ちをわかっていて、その上で、このような発言をしているのかもしれない。だとすれば、ずいぶんひどい話だ。  そんな状況に、僕が何も言えずにいると、美穂は、 「ちゃんと話をしたいの……」  と、まるで僕を宥めるかのように言う。 「ちゃんと話をしたいって、何を……?」 「これからの、私とあなたのこと」 「これからの、僕と君のこと?」 「そう……。これからの、私とあなたのこと。もちろん、お腹の子供のことも含めて……」 「お腹の子供って……僕の子供じゃないんだろう?」  僕の言葉に、美穂は黙って頷く。  このような状況になってまで、僕はどうすればいいというのだろうか。美穂に対する未練さえ断ち切ることができれば、僕はあらゆる法的手段を使って、美咲の親権を勝ち取り、離婚することができる。
/680ページ

最初のコメントを投稿しよう!