第1章 現在・僕

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 僕は、これまでに、美穂の携帯電話をチェックするようなことはしたことがない。僕は、美穂のことを信じていたし、まさか浮気をしているなどと疑ったこともなかったので、携帯電話をチェックする必要を感じたこともなかったのだ。  だから、今の今まで、僕は、美穂の携帯電話に、セキュリティロックがかけられていることすら知らなかった。もしかすると、美穂は、セキュリティロックをかけているからこそ、僕に携帯電話を渡したのかもしれない。  僕は試しに、僕の誕生日、美穂の誕生日、美咲の誕生日と、順番に入力してみるが、どれも暗証番号に合致しない。このままでは、わざわざ携帯電話を奪い取った意味もない。 「暗証番号は?」  僕が尋ねると、美穂は、少し間を置いてから、 「1204」  と答えた。  素直に答えるところをみると、どうやら美穂も、僕に携帯電話を渡した時点で、何らかの覚悟はできているらしい。だが、美穂の答えた“1204”という数字に、僕は心当たりがない。おそらく、浮気相手の誕生日か何かなのだろう。  確かめてみてもいいのだけれど、そんなことをしても、おそらく僕が傷つくことになるだけだ。それに、今は、携帯電話の中身の方が、ずっと気になる。  僕は、美穂の答えた暗証番号を入力し、セキュリティロックを解除した。  ちらりと美穂の方を見てみると、美穂はずいぶん落ち着かない様子で、そわそわとしながら、僕の動向を窺っている。
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