第1章 現在・僕

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 普通の恋人同士なら、ごくありふれた内容のメールだ。もちろん、美穂は僕の妻で、不倫をしているわけだから、こんな内容のメールだって、本当はあってはいけないことなのだが。  だけど、僕の目を釘付けにしたのは、それに続いて記載されていた内容だった。それは、何行も改行された上で、一見しただけでは見えないような形で記載されていた。  本文(続き)  美穂は、子供って好きなのかな?  俺は子供好きなんだよね  俺は美穂のことを本当に愛してる  やっぱり、男としては、愛してる女の人に自分の子供を産んで欲しいって思うじゃない?  美穂に、俺の子供、産んで欲しいな……  僕はその部分だけを、何度も読み返す。町村佑樹だって、美穂が僕の妻であることくらいは知っているはずだ。それにもかかわらず、自分の子供を産んで欲しいなどと持ちかけるなんて、一体どういう神経をしているんだ……。  だけど、もしかしたら、美穂は、自分が人妻であるということを隠して、町村佑樹と付き合っているのかもしれない。 「相手の男は、美穂が結婚してることを知ってるの?」 「うん、知ってる……」 「最初から?」 「うん、最初から……」  美穂の答えで、町村佑樹は、美穂が人妻だと知っていながら、子供を作ろうと提案してきたことが明確になる。僕の中で、町村佑樹に対する怒りが、めらめらと激しい炎を上げて、燃え上がる。
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