1816人が本棚に入れています
本棚に追加
「相手は誰だ?」
僕は、できるだけ声を荒げないようにして尋ねる。ここで声を荒げてしまっては、美穂が本当のことを言わなくなるかもしれないと思ったからだ。声を荒げるのは、後からだってできる。
僕の問いに、美穂は、悪びれる様子もなく、
「あなたの知らない人……」
と答える。
僕は、怒鳴り散らしたい気持ちを抑えながら、さらに問いを重ねる。
「僕の知らない人って、誰?」
「言っても、わからないと思う」
「名前は?」
「訊いてどうするの?」
美穂の問いに、僕は、思わず眉間に皺を寄せる。訊いてどうするかを決めるのは、僕が決めることだ。どうして僕が、それを美穂に語らなければならないのか?
とはいえ、このままでは、埒があきそうにない。とりあえず何かを言わなければと思い、僕は、
「わからない」
と答える。
「わからないって、どういうこと?」
「わからないものは、わからないんだ。それよりも、相手の名前を答えろよ」
僕の言葉に、美穂は少し黙った後で、
「佑樹。町村佑樹よ……」
と答えた。
最初のコメントを投稿しよう!