第1章 現在・僕

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「相手は誰だ?」  僕は、できるだけ声を荒げないようにして尋ねる。ここで声を荒げてしまっては、美穂が本当のことを言わなくなるかもしれないと思ったからだ。声を荒げるのは、後からだってできる。  僕の問いに、美穂は、悪びれる様子もなく、 「あなたの知らない人……」  と答える。  僕は、怒鳴り散らしたい気持ちを抑えながら、さらに問いを重ねる。 「僕の知らない人って、誰?」 「言っても、わからないと思う」 「名前は?」 「訊いてどうするの?」  美穂の問いに、僕は、思わず眉間に皺を寄せる。訊いてどうするかを決めるのは、僕が決めることだ。どうして僕が、それを美穂に語らなければならないのか?  とはいえ、このままでは、埒があきそうにない。とりあえず何かを言わなければと思い、僕は、 「わからない」  と答える。 「わからないって、どういうこと?」 「わからないものは、わからないんだ。それよりも、相手の名前を答えろよ」  僕の言葉に、美穂は少し黙った後で、 「佑樹。町村佑樹よ……」  と答えた。
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