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いまごろ、町村佑樹は自分の携帯電話とにらめっこしながら、電話のかけ間違いがないか、確認しているかもしれない。そんな、町村佑樹の焦った姿が、僕の頭の中にありありと浮かんでくる。
このまま勢いに任せてどなりつけてやろうかと思った瞬間、電話の向こうから、再び町村佑樹の声が聞こえてくる。
「すみません、間違えました」
どうやら、町村佑樹も、事態をようやく理解したらしい。町村佑樹は、そう言うと、慌てた様子で、電話を切ってしまった。
携帯電話のディスプレイには、“通話終了”の文字が表示される。僕は、切れてしまった電話を、美穂の方に差し出した。すると、美穂は、勢いよく僕の手から携帯電話を奪い取った。
「約束が違うじゃない!! 佑樹には、電話しないって約束したでしょう!?」
美穂は感情的に、僕に向かって怒鳴る。
「何が? 僕は約束なんて破ってない。電話をかけたりしないと言ったかもしれないけど、かかってきた電話に出ないとは、一言も言ってない!!」
「そんなの、屁理屈よ!! ウソツキ!!」
「はぁ? 何で僕がそんなこと言われなくちゃならないんだよ!?」
「だって、ウソツキじゃない!! サイテー!! あなたがそんな人だなんて思わなかった!!」
「それはこっちのセリフだろ!? 不倫して子供まで作ってくる女に“サイテー”だなんて言われたくない!!」
僕の言葉に、美穂は黙り込む。反論の余地はないということなのだろう。
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