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僕と美穂の間には、重苦しい沈黙が、我が物顔で居座る。このような状況では、もはや話し合いも何もない。僕だって、冷静に物事を判断することなんてできはしない。
それでも、美穂のお腹の中の子供のことだけは、何としても譲るわけにはいかない。明日にでも、堕ろさせなければならない。場合によっては、僕が会社を休んででも、病院に引きずって行かなければならない。そうしなければ、これから先のことなんて、考えられるはずもない。
僕は、再度、美穂に釘を刺しておくことにした。
「とにかく、全ては、お腹の子供を堕ろしてからだ。明日、病院に行って、堕ろしてきな。後のことは、それから話し合おう」
だけど、美穂だってそこは譲れないらしく、僕に激しく反論してくる。
「だから、私はお腹の中の子供のことも含めて話をしたいと言ってるでしょう!? 何でわからないの!? 子供を堕ろしちゃったら、もう、子供のことを話し合う余地なんてないじゃない!!」
「子供のことは、“堕ろす”が結論だ。それ以外の結論はない!!」
「何でよ!? まだ、何も話し合ってないじゃない!!」
「もう十分だろう!? これ以上、何を話し合えって言うんだよ!! そんなに僕を苦しめて楽しいのか!?」
「だから、それについては謝ったでしょう!? でも、私はこの子を産みたいの!!」
美穂はそう言うと、右手で自分の腹を大事そうに撫でた。
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