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美穂は町村佑樹に電話をかけるために、右手の指先で携帯電話を操作する。緊張しているのか、携帯電話を操作する美穂の手は、小さく震えている。
もしかすると、これで町村佑樹との関係が終わってしまうのを恐れているのかもしれない。だけど、冷たい言い方かもしれないが、そんなことは僕の知ったことではない。
これでも僕は、ずいぶん譲歩しているつもりだ。本来なら、すぐにでも僕が町村佑樹の所に怒鳴り込んだとしても、おかしくはない状況だ。それに比べれば、事前予告があるだけ、美穂にとっても町村佑樹にとってもマシなはずだ。
美穂は携帯電話を耳に当てたまま、なかなか口を開こうとはしない。おそらく、相手が電話に出ないのだ。町村佑樹が、先ほどの状況を警戒して電話に出ようとしないのだろう。
美穂はしばらく携帯電話を耳に当てていたが、諦めて電話を切る。
「佑樹が電話に出ないの……」
「さっき、僕が電話に出たから警戒してるんだろう? 適当にメールでも送ってから、電話したらいいだろう?」
「うん、わかった……」
美穂は答えると、相変わらず震える指で、携帯電話を操作し、メールの本文を打つ。指が震えているせいで、上手く操作できないのか、美穂は何度も打ち間違え、訂正を繰り返している。
そして、ようやく打ち終わったところで、送信前に僕はその内容を確認する。
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