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「お前、不倫してたのか?」
僕の問いに、美穂は黙ったまま、何も答えない。だけど、決して否定もしない。当たり前だ。否定のしようもないだろう。
なにせ、僕と美穂は、もう二年以上も、身体を重ね合わせていないのだ。今、美穂のお腹の中に宿る命が、僕の子供である可能性は0パーセントだ。
まして、美穂は、子供の父親の名前まで述べてしまっている。いまさら、否定のしようもあるまい。
しばらくの、重い沈黙の後で、
「ごめんなさい」
と、美穂は言った。
だけど、美穂の表情は、決して不倫を悔いたものには見えない。むしろ、謝罪の言葉は、僕に向けられたものと言うよりも、不倫相手か、あるいは、お腹の中の子供のためのように思える。
僕は、急激に、目眩のような感覚に襲われ、上半身がぐらつく。そんな僕を見て、美穂が手を差し伸べてくれるが、僕はその手を振り払う。僕のあまりの剣幕に、美穂は手を引っ込め、それ以上、僕に触れようとはしない。
“他の男を撫で回したそんな手で、俺を触るな!!”と、僕は怒鳴りたいが、言葉が喉の辺りでつっかえて、上手く出てこない。
僕は、しばらくソファの背もたれに凭れかかり、目眩のような感覚が落ち着くのを待った。
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