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佑樹は首を強く横に振って、美穂の幻影を振り払う。
「わかった。それで? 俺はこれからどうしたらいい?」
「たぶん、桜子さんの家に行ったら、2人がいると思うわ。そこで、何らかの証拠を押さえるのよ」
「そんなに上手くいくかよ……」
佑樹はボヤいて、ウィンナーコーヒーを啜る。
「上手くいくかどうかはわからない。でもね、手は打つつもりよ」
「どんなふうに?」
「まず、町村くんが桜子さんの部屋の前に着いたら、私の携帯にワン切りして」
「ああ」
「そしたら、私が、笹塚秀明に電話をかけるわ。狂った女を演じてね」
「狂った女?」
わざわざ演じなくても、お前は狂ってる……。
佑樹は心の中で思うけれど、口には出さない。
「で、町村くんは、部屋の前で中の様子を窺ってて。笹塚佑樹が中に入れば、私と電話してる声が聞こえるはずよ」
「まあ、たしかにそうだ」
「私が電話を切った後、少しだけ、2人の会話を聞いてて。それで、堕胎手術を思わせるような言葉が出てきたら、合い鍵を使って中に入って」
「中に入って、どうする?」
「それは、町村くんが考えてよ。表で話を聞いてたとか、いろいろ言い方はあるでしょ?」
「それはそうだけど……」
「大丈夫だよ。いざとなれば、私の名前を出しても大丈夫。でも、私の想定では、たぶん、笹塚秀明は、桜子さんと一緒にいるところを見られるだけで、そうとう慌てるはずだから」
「どうして?」
「あの男、小心者なのよ」
佐々木はそう言うと、バカにするかのように、ハハハッと笑った。それから、佐々木は紅茶を啜る。佑樹もウィンナーコーヒーを啜る。
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