第17章 現在・佑樹

9/24
前へ
/680ページ
次へ
 佑樹はテーブルの上に広げられた書類を見て、ニヤリと笑う。堕胎手術の同意書。桜子のサインに、印鑑まで押してある。  ハハハハハ……。  佑樹は心の中で高笑いする。そして、じっと佑樹を見ている桜子に答える。 「何しに来たって、この部屋の鍵を返しに来たんだよ。部屋の掃除をしてたら、出てきたからさ」  佑樹はそう言って、合鍵を桜子の前に差し出す。桜子はそれを奪うように取る。 「用件はそれだけ?」 「それだけだけど」  佑樹は短く答えて、美穂の旦那の方に視線を向ける。 「お久しぶりですね。笹塚さん。まさか、こんなところでお会いするなんて、思いもしませんでした」  その言葉に反応したのは、桜子の方だった。 「え!? どういうこと!? 何で佑樹が笹塚くんを知ってるの!?」  桜子が、佑樹と美穂の旦那の顔を交互に見る。そして、美穂の旦那が、桜子の質問に答える。 「美穂の……浮気相手だよ……」  その言葉に、桜子が固まる。 「えっ……あんたの奥さんの浮気相手って……佑樹なの……?」  桜子は明らかに動揺している。そんな桜子の問いに、美穂の旦那が黙って頷く。そして、今度は美穂の旦那が、桜子に尋ねる。 「君と町村くんは、どういう関係?」  その問いに、桜子は即答しない。俯いて、黙り込む。10秒くらいの沈黙の後で、ようやく桜子が、 「…………元カレ」  と答えた。その答えに、今度は美穂の旦那が動揺した様子だ。
/680ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1816人が本棚に入れています
本棚に追加