1818人が本棚に入れています
本棚に追加
/680ページ
だけど、美穂は、僕の反応に対して、黙って首を横に振って言う。
「とりあえず、検査には行ってくる。もしも堕ろすのなら、いつくらいまでなら大丈夫かも訊いてくる」
僕は少し考えてから、
「わかった」
と答えた。
実際問題、病院に行って、“子供を堕ろしてください”と言ったからといって、“はいどうぞ”といった感じで堕ろしてはくれないだろう。それくらいは、僕にもわかる。今は、これでいい。
「じゃあ、僕は会社に行く準備するから」
僕は、そう言って、美穂をソファに残して、リビングを出る。背後から、美穂のすすり泣くような声が聞こえてきたけれど、僕は振り返らない。今はまだ美穂を許す気にはなれない。なにより、僕自身が、ひどく混乱している。そして、ひどく苛立っている。
これからどうすればいいのかわからず、気を抜くと、また目眩のような感覚に襲われそうになる。そんな状態で、美穂にかける言葉など、見つけられない。今はとにかく、自分のことしか考えられない。
僕はそんなことを思いながら、ぼんやりとした頭で自分の部屋へ行った。
最初のコメントを投稿しよう!