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上司はギロリと桜子を睨んでから言う。
「上司としては、部下の身上を把握しておく必要があるんだよ。それくらいはわかるだろう?」
「ええ……」
「それで、噂は本当なのかね?」
「……はい」
桜子が答えると、上司は深くため息を吐いた。
「まったく、いい大人が何をやってるんだ。相手は誰なんだね?」
「それは答えられません」
「答えられないような相手なのかね?」
「そういうわけじゃありませんけど、相手の立場もありますし」
「まさか、この会社の人間じゃないだろうね?」
「違います」
桜子は首を横に振った。別に秀明を守ろうとか、そういうことを考えたわけじゃない。ただ単純に、これ以上噂が酷い状態になることを防ぎたかった。相手が秀明となると、噂にどんな尾鰭がつくかわかったものじゃない。
上司は手帳に何かを書き込んでから、更に問いかけてくる。
「それで、これからどうするんだね? 当然、堕胎手術を受けるんだろう?」
「それについては、まだ決めていません」
「決めていないって……」
上司はひどく呆れたような表情を浮かべる。
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