第25章 現在・桜子

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 上司はギロリと桜子を睨んでから言う。 「上司としては、部下の身上を把握しておく必要があるんだよ。それくらいはわかるだろう?」 「ええ……」 「それで、噂は本当なのかね?」 「……はい」  桜子が答えると、上司は深くため息を吐いた。 「まったく、いい大人が何をやってるんだ。相手は誰なんだね?」 「それは答えられません」 「答えられないような相手なのかね?」 「そういうわけじゃありませんけど、相手の立場もありますし」 「まさか、この会社の人間じゃないだろうね?」 「違います」  桜子は首を横に振った。別に秀明を守ろうとか、そういうことを考えたわけじゃない。ただ単純に、これ以上噂が酷い状態になることを防ぎたかった。相手が秀明となると、噂にどんな尾鰭(おひれ)がつくかわかったものじゃない。  上司は手帳に何かを書き込んでから、更に問いかけてくる。 「それで、これからどうするんだね? 当然、堕胎手術を受けるんだろう?」 「それについては、まだ決めていません」 「決めていないって……」  上司はひどく呆れたような表情を浮かべる。
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