第1章 現在・僕

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 冷静な美穂の言葉に、僕の感情は、更に逆撫でされ、声は大きくなってゆく。 「はぁ!? 自分で何を言ってるか、わかってんのか!? 自分の嫁さんが、自分ではない別の男の子供をはらみましたって聞いて、気にせずに生んでくださいなんていう男が、どこにいるっていうんだ!?」 「そういうことじゃない!! ただ、私は、お腹の中の子供のことも含めて、あなたとの今後のことを話したいだけ!!」  美穂の激しい言葉に、僕の頭の中には、“離婚”の二文字がよぎる。場合によっては、離婚も仕方がないと思っていた僕も、それが現実味を帯びてくると、さすがに尻込みしてしまう。  僕は、それまでの勢いを完全に失い、恐る恐る、 「それは、“離婚”ということか?」  と尋ねてみる。  すると、美穂は、静かに首を横に振り、 「あなたと離婚しようなんて、一度も考えたことない」  と答える。 「だったら、どうして他の男と寝たりしたんだ!? おまけに、子供まで作って!! それで、どうやって僕は、君の言葉を信じればいいんだ!?」  僕の言葉に、美穂は力なくうなだれ、しばらく黙った後で、再び、 「ごめんなさい」 と呟いた。 「謝って済む問題じゃないだろう!?」 「あなたが許してくれないのなら、離婚されても私は文句を言えないから……」  美穂の言葉に、僕は一瞬にして繋ぐ言葉を失う。美穂は、僕が許さないのなら、離婚されても文句は言えないと言う。だけど、それは、裏を返せば、“私を許さないのならば、離婚してください”という、美穂の意思表示だ。
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