番外編第1章 過去・香代子

2/18
1819人が本棚に入れています
本棚に追加
/680ページ
「ねえ、香代子。いい加減にしたら?」  長嶺が去るのと同時に千春が言う。 「だから、もうちょっと待ってってば」 「違うよ。長嶺先輩のこと」 「先輩のこと?」 「好きなんでしょう?」  千春はニヤリと笑う。  千春にはそのことも伝えてあるし、長嶺先輩目当てで囲碁部に入ったことも伝えてある。だから、知っていて当然なのだけど、改めて言われると顔が熱くなる。 「もう、揶揄(からか)わないでよ」 「揶揄ってなんかないよ。たださ、長嶺先輩、カノジョもいないんだし、いい加減に告白したら?」 「そうはいってもさ……」 「香代子、可愛いんだし、イケると思うけどなぁ……。長嶺先輩も、香代子のこと気になってるみたいだし」 「ホントッ!?」  香代子は思わず大声を上げる。その声に、他の部員たちの視線が集まる。思わず、『何でもないです』と誤魔化しながらも、香代子の純真な乙女心は、千春の一言で激しく膨らむ。  頭の中で勝手に長嶺とのデートシーンを想像し、思わずニヤつきそうになる。 「香代子、どうでもいいけど、囲碁の方も早くしてよ」  千春に催促されて、香代子は我に返り、大して何も考えずに石を置いてしまった。
/680ページ

最初のコメントを投稿しよう!