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だけど、僕は、そんなに簡単に、美穂に対する未練を断ち切ることができそうにない。
僕は、テーブルの上に置いておいたビールの残りを、一気に飲み干した。頭が混乱しているせいか、ビールの味など、一つもわからない。
このまま酔っぱらって、何もかも忘れることができれば、幸せなのかもしれない。だけど、今の僕には、酒に酔うことすらできない。
僕は、空になったビールの缶を、静かにテーブルの上に戻した。
そのとき、突然、部屋のどこかで、美穂の携帯電話が鳴り始めた。
一体どこから音が聞こえてくるのだろうと、僕が部屋の中を見回すのとほとんど同時に、美穂が立ち上がる。そして、美穂は足早に、部屋の隅のワゴンラックの所までいくと、携帯電話を手に取る。
美穂は、そのまま、電話で何らかの操作をして、電話に応ずることなく、僕の所まで戻ってきた。もちろん、その手には、携帯電話がしっかりと握られている。
「電話、誰から?」
僕の問いに、美穂は何も答えない。そんな美穂の態度から、僕はすぐに、電話の相手が、美穂の浮気相手だということに気が付いた。
美穂は、携帯電話を、後ろ手に隠す。
「携帯電話、見せてみろよ」
僕が言うと、美穂は、ただ首を横に振る。
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