第1章 現在・僕

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 だけど、僕は、そんなに簡単に、美穂に対する未練を断ち切ることができそうにない。  僕は、テーブルの上に置いておいたビールの残りを、一気に飲み干した。頭が混乱しているせいか、ビールの味など、一つもわからない。  このまま酔っぱらって、何もかも忘れることができれば、幸せなのかもしれない。だけど、今の僕には、酒に酔うことすらできない。  僕は、空になったビールの缶を、静かにテーブルの上に戻した。  そのとき、突然、部屋のどこかで、美穂の携帯電話が鳴り始めた。  一体どこから音が聞こえてくるのだろうと、僕が部屋の中を見回すのとほとんど同時に、美穂が立ち上がる。そして、美穂は足早に、部屋の隅のワゴンラックの所までいくと、携帯電話を手に取る。  美穂は、そのまま、電話で何らかの操作をして、電話に応ずることなく、僕の所まで戻ってきた。もちろん、その手には、携帯電話がしっかりと握られている。 「電話、誰から?」  僕の問いに、美穂は何も答えない。そんな美穂の態度から、僕はすぐに、電話の相手が、美穂の浮気相手だということに気が付いた。  美穂は、携帯電話を、後ろ手に隠す。 「携帯電話、見せてみろよ」  僕が言うと、美穂は、ただ首を横に振る。
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