第1章 現在・僕

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 この期に及んで、携帯電話を見せることを拒否するとは、何とも往生際の悪い女だ。 「いいから、見せろよ。どうせ、今、電話をかけてきたのも、町村佑樹とかいう、浮気相手なんだろう?」 「…………うん」 「もう、僕にここまで知られていて、それでも携帯電話を見せない理由は何だ!? まさか、お前、別の男とも浮気してるんじゃないだろうな!?」 「違う!! 佑樹以外とは、誰とも浮気なんてしてない!!」  これまで、感情を抑えるように、控えめに話していた美穂が、突然、声のトーンを上げて、懸命に否定する。  美穂の態度は怪しすぎる。なぜ、そんなにも強硬に、町村佑樹以外の男性との浮気を否定しなければならないのだろうか? 美穂が町村佑樹以外の男性と浮気をしたことがないというのが、真実だからだろうか?  だけど、どんなに美穂が強硬に主張しようとも、僕はそれを信じることなどできない。なにせ、美穂は、僕という夫がありながら、他の男と身体を重ね合わせ、あまつさえ、妊娠までしてしまったのだ。  今はしていなくても、過去に、美穂が浮気をしていた可能性はぬぐい去れない。あるいは、恒常的な浮気でなくとも、一夜限りの相手と、身体を重ね合わせていた可能性だって、消し去ることができるものではない。  とにかく、携帯電話の中身を確認してみなければ……。僕の中で、ただその考えだけが、強く膨らんでいく。
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