第1章 現在・僕
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第1章 現在・僕

 風呂上がりに、冷蔵庫から冷たい缶ビールを一本取り出し、リビングのソファに腰を下ろして飲んでいると、妻の美穂が、パジャマ姿でやって来て、僕の隣に腰を下ろして言った。 「ねえ、私、妊娠したみたいなの……」 「ん? 何だって?」  僕は、美穂の言葉が上手く聞き取れず、思わず尋ねる。いや、正確には、上手く聞き取れなかったのではなく、上手く理解できなかったのだ。 「ねえ、私、妊娠したみたいなの」  美穂は、もう一度、同じ言葉を、先ほどよりもはっきりとした口調で繰り返す。今度は、美穂の言葉がはっきりと聞き取れたし、はっきりと理解することもできた。  だけど、僕は、念を押すように、 「もう一度、言ってみて?」  と、美穂に言う。 「だから、私、妊娠したみたいなの」  美穂は、さらにはっきりとした口調で繰り返す。  もはや、僕は、美穂の言葉を、聞き間違えようもなかった。美穂は、僕に、妊娠したと言っているのだ。 「は? どういうこと?」  僕は、手に持っていたビールを、目の前のテーブルに叩きつけるように置き、冷たく言ったテーブルに叩きつけた衝撃で、缶の飲み口から、ビールが跳ねてこぼれる。だけど、今は、そんなことに構っている場合ではない。
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