第10章 過去・美穂

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第10章 過去・美穂

 4度目は、大学卒業を目前に控えた、大学4年の1月。その日、美穂はいつもと同じように秀明の家に行った。すると、そこには秀明の友人である鈴木浩介が来ていた。  美穂が合い鍵を使って家に入ると、秀明と浩介は慌てた様子でテレビのリモコンを操作する。 「そんなに慌てて、どうしたの?」 「いや、何でもないよ」  浩介が美穂の問いに答える。だけど、怪しさ満点だ。何でもないわけではないことくらい、美穂にもすぐわかる。 「えー……何なの? 私にだけ秘密?」  美穂が不貞腐れた表情を浮かべて言うと、秀明がため息を吐いて言う。 「ゴメン、美穂。実は今、エロビデオ見てたんだ」  秀明はバツが悪そうだ。だけど、美穂はそんなことなど気にしない。むしろ、男性向けのアダルトビデオには、以前から興味があったくらいだ。  だけど、美穂の中で、少しだけイタズラ心が働く。 「へえ、秀明、AV見てたんだ。まあ、仕方ないよね。私、ムネちっちゃいし」  美穂は軽く嫌みを交えて言う。その言葉に、秀明は慌てる。 「そんなんじゃないって!! ただ、浩介が“スゴいビデオが手に入った”って言って持ってきたから見てただけだよ」 「そうだよ、美穂ちゃん。俺が持ってきたんだよ」  浩介が秀明の助太刀をする。そんな秀明達の態度に、美穂もそれ以上からかう気がなくなる。 「大丈夫だよ。気にしてないから。男なんだから、AVくらい見るよね」  美穂は言いながら考える。  AVを見るくらい、私が秀明にした裏切りに比べれば可愛いものよね……。  考えると、これまでの3度の過ちが脳裏に蘇る。どれも、美穂が自分の過去から消し去りたい思い出だ。だけど、それらは消えてなくならない。考える度に、自己嫌悪に陥る。
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