第13章 現在・美穂

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第13章 現在・美穂

 Yシャツを1枚買ってきてほしいと夫から頼まれたのは、昨日のことだった。佑樹の家で話し合いをして以来、美穂は家から出ない日常が続いていた。  佑樹の裏切りで、他人が怖くなったというのもある。だけど、なにより、家から出ることで、夫から余計な疑いをかけられたくなかった。近くのスーパーへの買い物すら、行かないようにしている。食材は、夫が仕事帰りに買ってきてくれる。そんな日が、9日も続いた。  そして、10日ぶりに、美穂は外出する。実家に美咲を預けに行くと、実の父である誠一から、浮気の疑いをかけられた。それもこれも、全て自分が悪いのはわかっている。だけど、やはり肉親に疑われると、気分が沈んでしまう。だけどキチンと事情を説明して、美咲を預かってもらった。  誠一は最後の最後まで、疑わしそうに美穂を見ていた。それでも最終的に美咲を預かってくれてのは、やはり孫が可愛いからかもしれない。  そうして、ようやく1人になった美穂は、繁華街のデパートに向かう。美穂は紳士服売り場で、手頃なYシャツを探す。できるだけ他人と接触しなくていいように。商品を見ていても、売り子が寄ってくると場所を変える。そうして売り子の声かけをかわしながら、Yシャツを選ぶ。  そのおかげで、Yシャツを決めるのに少し手間取った。結局、1時間近くかけて、ようやくYシャツを選び、会計を済ませる。用件は済んだ。  本当なら、自分の洋服も見てみたいところだ。これまでなら、間違いなくそうしていた。だけど、美穂は寄り道などせず、まっすぐにデパートを出る。それが今の自分にあるべき姿だと、美穂は思っている。
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