第16章 現在・僕

1/19
1817人が本棚に入れています
本棚に追加
/680ページ

第16章 現在・僕

「あなた、行ってらっしゃい」  美穂が笑顔で僕を見送る。その隣で、美咲が笑顔で僕を見上げながら、 「パパ、行ってらっしゃい」  と手を振る。 「うん、行ってきます」  僕は美穂と美咲に手を振って、いつものバス停へ向かう。何気ない朝の光景。美穂の浮気騒動から1ヶ月半、ようやく取り戻した日常。以前は、当たり前のこと過ぎて、特別な思いなんかなかった。だけど、今は、この何気ない光景が、どんなに幸せなことなのかを、身にしみて感じる。  あのまま無くなってしまわなくて本当によかった……。  僕はそう思い、胸をなで下ろす。  もう、二度とあんなことはゴメンだ……。  これからは何事もなく、この幸せを守っていきたい……。  最近はいつも、そんなふうに思う。そして、実際、今、僕は幸せだ。いつも乗るバスに揺られ、駅へと向かう。駅で電車に乗り換え、会社に向かう。  しばらくは苦痛に感じていた通勤も、今は楽しいものだ。始業の10分前には机につき、パソコンの電源を入れる。それから、メールをチェックする。特に重要なメールは届いていない。  やがて、始業のベルが鳴る。そうして、僕の9月6日が始まった。
/680ページ

最初のコメントを投稿しよう!