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第16章 現在・僕
「あなた、行ってらっしゃい」
美穂が笑顔で僕を見送る。その隣で、美咲が笑顔で僕を見上げながら、
「パパ、行ってらっしゃい」
と手を振る。
「うん、行ってきます」
僕は美穂と美咲に手を振って、いつものバス停へ向かう。何気ない朝の光景。美穂の浮気騒動から1ヶ月半、ようやく取り戻した日常。以前は、当たり前のこと過ぎて、特別な思いなんかなかった。だけど、今は、この何気ない光景が、どんなに幸せなことなのかを、身にしみて感じる。
あのまま無くなってしまわなくて本当によかった……。
僕はそう思い、胸をなで下ろす。
もう、二度とあんなことはゴメンだ……。
これからは何事もなく、この幸せを守っていきたい……。
最近はいつも、そんなふうに思う。そして、実際、今、僕は幸せだ。いつも乗るバスに揺られ、駅へと向かう。駅で電車に乗り換え、会社に向かう。
しばらくは苦痛に感じていた通勤も、今は楽しいものだ。始業の10分前には机につき、パソコンの電源を入れる。それから、メールをチェックする。特に重要なメールは届いていない。
やがて、始業のベルが鳴る。そうして、僕の9月6日が始まった。
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