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第3章 現在・僕
気がつくと、夜は明けていた。結局、美穂の電話に、町村佑樹からの連絡は無いままだ。もちろん僕は、何度も美穂に連絡させた。だけど、メールは返ってこないし、電話は当然のように直留守だ。
町村佑樹が本当に美穂のことを愛しているのならば、絶対にこんな態度はとらないだろう。美穂を無視するような態度をとる時点で、僕には、町村佑樹が美穂を本当に愛しているわけではないという確信がある。
僕がもしも町村佑樹と同じような立場で、その女性を本当に愛していたとしたら、その夫とどんなに争ってでも、愛する女性を手に入れたいと思う。そうでない時点で、本当に愛しているとはいえないと、僕は思う。
美穂がそのことに気づいているのかどうかわからない。ただ、黙って、握りしめた携帯電話を、寂しげな瞳で見つめ続けている。
時計の針は、午前6時30分を示している。あと30分くらいしたら、僕は家を出なければならない。そうしなければ、会社の出勤時間に遅れてしまう。
「とりあえず、今日、病院に行ってきて」
僕は、携帯電話を握りしめる美穂に言った。
「うん……。病院には行くよ……」
「病院に行くっていう意味、わかってるんだろうね?」
「堕ろせってことでしょ?」
美穂の問いに、僕は黙って頷く。
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