第26章 現在・佑樹

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第26章 現在・佑樹

 佑樹は裁判所の一種独特な雰囲気に緊張していた。掌には汗をかき、ぐっしょりと濡れてしまっている。そんな佑樹に、弁護士は、 「少しリラックスしてください」  と声をかけてくるけど、リラックスなんてできるはずもない。この裁判で佑樹の今後が決まってしまうのだ。リラックスしろなんて言う方が無理な話だ。  やがて、黒い法服を着た裁判官が入ってきて、全員が立ち上がり、礼をする。 「それでは開廷します」  裁判官の一言で、裁判が始まった。  まずは、佑樹の人定質問が始まる。裁判官は佑樹に、氏名、年齢、職業、住所、本籍を尋ねる。佑樹は裁判官に問われるままに答えるが、緊張でどうしてもどもってしまう。ドラマでか見たことのないような裁判の光景に、佑樹はより一層緊張してゆく。  佑樹の人定質問が終わると、裁判官は検察官に起訴状の読み上げを指示した。年配の男性検察官はゆっくりと立ち上がると、起訴状を朗読し始める。起訴上の内容は、要するに佑樹が佐々木香代子を強姦し、それが刑法177条の強姦罪 ()に該当するというものだ。  その長い朗読の間、佑樹は口を挟むこともできない。それが裁判の掟らしい。検察官の淡々とした朗読を聞いている間に、佑樹も少し肩の力が抜けていくような気がした。 (注)刑法177条『強姦罪』は、平成29年、『強制性交等罪』に改正され、法定刑は3年以上の有期懲役から5年以上の有期懲役に変更されています。
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