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第4章 過去・美穂
美穂が始めて町村佑樹に出会って3日後。午後2時。美穂は、一通りの家事を終えて、ワイドショーを見ながら微睡んでいた。
娘の美咲はタオルケットをかぶって昼寝している。美穂にとって、一日のうちで最もゆったりとした時間だ。あと数時間もすれば、晩ご飯準備をしなければならない。束の間の休息だ。
テレビ画面がコマーシャルに切り替わった瞬間、携帯電話が鳴り出した。
こんな時間に、一体誰だろう……?
美穂はそう思いながら、携帯電話を手に取る。液晶画面には町村佑樹の名前が表示されている。
「えっ!?」
美穂は思わず声を上げる。
ホントに連絡くるなんて……。
思いもよらない電話に、美穂は戸惑う。
たしかに、智子との飲み会の後で、佑樹と連絡先を交換した。だけど、そんなのは、その場限りのものだと思っていた。
どうしよう……。
美穂は、電話に出るかどうか迷った。たぶん、佑樹の用件は、経済学を教えてほしいということだろう。だけど、実際のところ、美穂は経済学のことなど、ほとんど覚えていない。経済学と関わりのない生活を5年も続けていれば、そんなもの、記憶の中から消えてしまう。まして、いまさら誰かに教えることなんてできない。
だけど、電話は切れることなく鳴り続ける。迷った挙げ句、美穂はようやく決意して通話ボタンを押す。
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