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初対面の人を家にあげるつもりはないし、新しく場所を考えるのも面倒だったので、紬は再びつくも堂の錠を開けた。
カーテンは下ろしたまま、待合スペースで二人は相対する。
紬と青年は机を挟んでソファに座り、九十九たちはというと、申し合わせたように紬の後ろに立ち並んだ。
名刺のやり取りはなく、
「片倉一和と申す」
と、彼は紬に一礼した。
当初は不審者と見ていたが、よくよく観察すると爽やかな好青年だ。
英姿颯爽。彼は向き合ってみれば気持ちのよい、誠実そうな声を出す。
短髪のさっぱりした外見で、その手入れは凛々しい眉にまで行き届いている。
――どことなく秋に似ている、見た目も雰囲気も。
九十九は使用者に似る。
そこに考えが及ぶと緊張して、紬はこっそりと息を吐いた。
片倉一和は早速、用向きを伝えんと語り出した。
「長年、片倉家で探していた鍔がある。元はこの刀に付いていたものである。……失礼」
断ってから、一和は自身の刀を机の上に置いた。
カーディガンの下から現れた刀は、紬の予想を超えない長さのものだった。
刀身は黒漆の鞘に収まって、それは立派な外装をしている。
持ち歩くには勿体ないくらいの見事な拵え。
ただし、鍔だけがない。
喰出鍔のように鍔が小径で目立たなかったり、元々鍔のない刀だってあるけれど、これはそういうものではなさそうだった。
鍔だけが抜けてしまった不完全さ、不自然さ、不穏当さ。
それは刀界隈にはあまり詳しくない、紬が見ても感じられた。
「この刀より鍔が抜かれたのは、明治に行われた武家制度の解体がきっかけであった。家が財政難に陥ってな。その際に、珍しいことだと思うが、この刀の鍔のみを欲した商人がいたそうで……背に腹は代えられぬと、仕方なく、身を切る思いで、鍔だけを手放したのだ。俺の曾祖父のさらに父、和六郎の代のときだ」
まるで当時そこに居合わせていたのかと思うほど、青年の口ぶりには情がこもっている。
紬の聞いている様子を目で確認しながら、彼は言葉を言い繋ぐ。
「しかし、一度手放したとはいっても、心までそうであるわけではなかった。和六郎はその鍔を取り戻さんと努力したそうだ。結局は為せなかったが……それでも子孫が、いつかまた迎えに行くように、そのために刀身は何があっても手放さぬようにと和六郎は伝えた。その思いは家全体の悲願となって、今日まで言い伝えられてきたのだ」
「その鍔が、秋津丸なんですか」
「示現した姿の名は秋津丸というのか。ならばそうである」
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