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「便利な世の中になったねぇ」
液晶画面をスクロールしながら、六花は感じ入るように言った。
「片倉姓は割といるから、出てこないかとも思ったけど。家というか、一和くんのことは出てきたよ」
今彼が触っているのは、普段は店のスケジュール確認に使っているノートパソコンである。
九十九神もインターネットを駆使する時代。
紬もそうだが、六花や秋も時折このようにネットサーフィンをする。
六花はリビングでパソコンを開いていたので、周りにいた紬たちもその画面を見ようと集まった。
「わ、すごい。写真付きだ」
隣から覗き込んで、紬は目を見張った。
六花が見付けたのは、地方新聞のネット記事。
内容はスポーツニュースで、全日本の学生剣道の大会において、彼が三位を獲ったことを取り上げたものだった。
「大学四年生なんだ。二十二歳、私と同い年だ」
「お家が道場開いてるんだって。そっちは剣道じゃなくて、剣術流派のらしいけど」
「へぇ。なんか、道着だとまた雰囲気が違うね」
絵になるなぁ、と紬は写真の一和を見た。
面を外してカメラに微笑みかける一和の風姿は、ひとえに清々しく格好良い。
やっぱり秋に似ている。
そう思ったとき、紬のスマートフォンに電話がかかってきた。
祖父からだ。
大事な相談事があるからいつでもお電話ください、とメールを入れていたのだ。
「行ってくる」
敵などいないのに、戦いに赴くような気迫を携えて、紬は自室へと向かった。
――やがてリビングに帰ってきた紬は、誰が見ても落ち込んでいた。
彼女はラグマットの端に足の指をかけて、こう言った。
「……私は、秋に決めてもらいたい」
「名津彦もそう言ったのか?」
「おじいちゃんは、私のものになる予定だったのだから、私が決めればいいって」
耀の質問に答えると、彼は「だろうな」と溜息交じりに言った。
「物が主人を決めていいはずがない。お前の気持ちの問題はあれど、だ」
「でも、私に決定権があるとしても、私は秋の気持ちを尊重したい、という意見なの。甘いって思われてもいい。……ねぇ秋」
紬が秋の方を見やった。
紬の電話中から起立していた敬虔な鍔は、
「お嬢と一和殿。どちらがどのような方であれ、自分には決められません。理由は、耀が言った通りです」
と言って、すっと目を伏せた。
せっかく気持ちを伝える手段を持っているというのに、九十九はそれを教えてくれないときがある。
物と人、見えない境界線があるのを紬は感じた。
打ち寄せる静けさが寂しい……けれど、それで折れてしまうほど、彼女の信念も柔くはなかった。
紬は考えをまとめた末、深夜、秋を魂鎮めに誘った。
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