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一方、春苑家では置いてけぼりの九十九が二つ、門先で次のようなやり取りをしていた。
「行っちゃったね」
「紬はどうしてああも突っ走る。誰に似た?」
「さぁ。誰も思い浮かばないけど……って、耀。何する気」
大人しく家の中に戻ろうとしていた六花は、怪訝な顔で耀を見た。
耀の体内の霊気が波打っている。
くつろげていた着物の衿を直し、彼は夜風を従えるように、両の袖をばさりと振るった。
「追いかける」
「この時間だよ? 電車もないのにどうやって……わわっ!?」
つむじ風の生じると共に。
耀が霊気を具現化させ、背中の上部より生やしたのは鳥の翼だった。
「高いところが苦手なら、目つぶってろ」
黒い両翼を広げた彼は、六花の体を担ぎ上げると容易く飛び上がる。
その勢いは強く、二人はあっという間に地上から遠く離れ、街一帯を見下ろす高さへと飛翔した。
「耀って空飛べたの!?」
「一応烏だからな。……ただ、二百年ぶりだ。墜落したら悪い」
「悪いじゃすまないって! 九十九の体は死なないかもしれないけれど、少なくとも精神には悪い!」
さして悪気も感じていない断りに六花は叫んだ。
自分だって浮くことはできるけれど、飛行なんか未経験だ。というか、どうして今まで教えてくれない。
「……もう! 老体で無理しないでよね! 僕、絶対に落ちたくないから!」
遠くに見えていた電波塔の電飾に、雲のもやがかかり始めた。
耀が飛ぶ速度を速めると、そんなものも一切見えなくなって、視界にはただ闇が広がるばかりである。
普通に怖いんだけど!
――六花の悲鳴は、首都の星なき夜空に吸い込まれていった。
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