リーディ

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リーディ

4年前の記憶は、城を出ていく時だ。 もう俺を忘れてほしいと言った時の彼女の表情。押し付けられる唇。でも、俺は甘い疼きを感じなかった。親愛の情だけで。 何故最後の城での記憶がそうなのだろうか…。俺は魔法陣で城を目指しているときに不意に思った。                       ふと、足元が煉瓦で整備された床であることに気付く。うっすらとぼやける視界の焦点が合ってきて・・・。 無事俺たちは、スフィーニ城に着いたのだ。 「ここは・・・?」 コウがメイの腕を肩に担いだ状態で訊いてきた。 「城の魔方陣部屋だ。」 「ってことは…。」 コウの顔が明るくなる。俺は微笑んで頷こうとした時、 「王子、よく無事で・・・」 少し強張った笑顔で迎える、黒髪の我が従者の姿がそこに在った・・・。 出迎えたセシリオに対して、俺は問うた。 「セシリオ、観えたのか?」 「いえ・・・ちょっと緊急で西の塔へ向かう途中でここを通りがかった時に光が漏れていたので、誰かが魔方陣を利用していると気が付いて入ったらここに。それよりも王子も、早急に私に付いてきてください。」 「…何か西の塔であったのか?それよりも姉は王の間にいるんだよな?」 まだ工事中の西の塔で一体何があったんだ? 俺は冷や汗をかいた。一方でコウに担がれているメイも心配で早くフィレーンに 回復をかけてもらいたいのだが…。 「王女も西の塔へ向かいました。レオノラが・・・勇者殿を呼び出して言い争っているみたいで、それを止めに。」 「…何だって?」 レオノラが…?ステラを? ステラが城に行く話は聞いていた。 しかし、何故レオノラが? まさか…レオノラは…。 胸騒ぎがしてならない。俺は頷くと二人に目配せしてセシリオの後に付いて行った。               メイを担ぐのを手伝いながら俺たちは西の塔を目指す。まず彼女をフィレーンに診せて回復させてやらなければならない。 そのフィレーンがステラ達を止めに? 逸る気持ちを抑えて、どうにか塔の手前まで来た時、レオノラの憤怒に満ちた声が 聴こえてきた。 「父も母も魔族に殺された私たちの気持ちなんてあんたにはわからないわよ!!」  それを聴いた時、どうにもならない遣る瀬無さと、ステラの心の痛みを感じて無力になる。自分に不甲斐なさを感じることしかできなくて…。 でも、止めないといけない。 レオノラを追い詰めたのは俺に一番責任があるのだから。そう決意し、静かに扉を開ける。 そこには、 呆然と立ち尽くしているステラと、 慟哭しているレオノラ、 珍しく悲しそうな表情でその光景を見つめている我が姉。 そして、困惑しているゾリアが居た。 まず、俺たちにいち早く気が付いたのはゾリアだった。 「リーディ・・・それにセシリオも。」 「!!」  レオノラが驚いた顔で俺を見る。 続いてステラも。彼女は逆に俺と目が合った瞬間、まるで罪人の様に俯いたのだ。 おそらく、レオノラに言われたあの叫びが相当堪えたのだろう。  あいつの、辛そうな顔は魔性に操られて俺が刺された後、記憶が戻った時以来だった。 それを見た時心が鷲掴みされたように痛かった。 「リーディ…。」    フィレーンが呟く。姉も何も言えなくなったのだろう。確かに4年前の惨劇を想うとレオノラも責められなかったから。  従って情けないことに俺も何も言えなかったのだ…。 するとぐったりしていたメイがこう言った。 「悪い、コウとリーちゃん、どうにか立てるから離して。」 「でも…」 メイはコウの拒否に優しく首を振ってその手を離すように促した。 「大丈夫だから。リーちゃんもさ。」 メイは絶対無理をしない性質なので、俺は心配しつつも手を離す。小さな声で「ありがと」、と言うと彼女はふらつきながらもレオノラの前に立った。  「何よ…あなた。」 レオノラの警戒心丸出しの声がする。 それに対してメイが静かな抑揚で話し出した。 「…ねぇ、そんなコト言ったらリストンパークでの襲撃に巻き込まれた人なんてどのくらいいると思うの?あたしたちはさー、あんたみたいに直接魔族に親を殺された訳じゃないけど国を追われて、私移住先の国で母さん亡くしてるよ?私の母は身体が弱かったけど移住なんてしてなかったらたぶん元気で踊っていたと思うよ、あの人。」 レオノラの表情がピクリと反応する。 それに構わずメイは言い続けた。 「…だからさ、皆広い意味での被害者だと思う。それにさ、あんたが魔族だって嫌ってるステラだって魔性にお母さん殺されたようなもんだって。それにステラは確かに魔族の血をひいているかもしれないけどそれは彼女のせいじゃないし彼女だってそれで辛い思いしているんだよ。あとさ、ここには今いないけど私たちの仲間でシスターキャロルって人がいるけど彼女も親を魔族の襲撃で亡くしたんだって。けれど復讐心なんて持っちゃいない。普通持つものだと思うし、別にそれは否定しないけど、彼女はただただ哀しくて、 だからこそ一人でも多くの人が平和に幸せに暮らせることだけを願っているよ。 」 「メイ…。」  ステラが切なげに呟いた。 レオノラも、少し冷静になったようで憤怒の表情は消えていた。 ああ、俺何もできないでいた。  メイに助け舟出してもらって…。不甲斐ないことこの上ない。  だから俺は、ちょうど皆が集まっている今こそ、自分の真意を言うべきだと思い、そっとステラのもとへ歩き出した。
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