メイ

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メイ

あーらら。 ステラ、目をまん丸くしてあたしを見る。 「でも…魔族の血を引いているんだよ?私」 そしてすぐにまじめな顔でそう答えたんだ。 「だから!!一旦そう言うのは置いておいてって言ったじゃん。」 「…。」 ステラは再び黙って俯く。そう! この表情よ、この表情! キリっとして隙のないこの子が、物憂げな顔をする瞬間。 男がグラッと来ない筈は無い。 まー、リーちゃんは彼女のことそれだけで好きになったわけじゃないだろうけど。 「リーちゃん言ったじゃんか。魔族とかそう言うのもひっくるめて好きだって。彼、相当本気だってことだよ?」 「そう…。」 「アンタだって、リーちゃんのこと好きなんでしょ?」 「…うん。」 あーあ。 こりゃ重症だ。 「いいかいステラ?これだけはおせっかいだけど言っておく。勇者だからとか魔族だからとか、何度も言うように常に意識する必要はないんだよ。一人の女になる瞬間があってもいいじゃないか。多分リーちゃんだって、王子だとか封印解く者とかそう言うの取っ払って、一人の男として一人の女のあんたのことが好きなんだから。そうじゃないと、マジでヤバい瞬間に、アンタ後悔の嵐になるよ? それでもいいのかい?」  あたし、気が付いたんだ。二人が皆の前で急によそよそしくなったのは。ロディアーニの山越えで、リーちゃんが操られたステラに刺されて、瀕死の重傷を負った時以来だって。  リーちゃん、きっとあの時覚悟を決めたんだろうな。ステラを真剣に愛するって。 そしてステラは首を振って、こう答えた。 「そうだよね…。」 でもステラの顔はまだちょっと曇り気味。 おそらく私達があの西の塔に着く前にレオノラさんに何か言われたんだろう。  リーちゃんとレオノラさん、付き合っていたのは確かだけど、実際はどうなんだ? おおよその見当は付くけどね。リーちゃんがうっすらそれらしきこと言ってたし。 そんなデリケートな事おせっかいなあたしだってさすがに訊けないし。  そう思い今度はあたしが困った顔をしたら、ステラが口を開いた。 「ありがとう、メイ。少し元気が出たよ。」 そう微笑んで立ち上がる。 「戻ろう。」 銀の髪がふわりと靡く。屈託のない笑顔。 そう、みんなあんたのその笑顔が好きなんだよ。 ―まだまだ、完全な笑顔にはなりきれてないけどね。 あたしは頷くと、彼女の横に並んで歩き出した。         キャロル エメラインに連れられて森の小道を渡る するとまたピンク色の靄がかかっている場所に出た。 「この先には妖精の世界の長老様がおわします。」 「はー緊張するな」とポギー。 「ねー。長老様だし」とレーシィ。 「ところで、あなたたちのほかの妖精はどこにいるの?」 「…たぶんまだ長老様のお目通りが済んでないから出てこないんだと思う。」 「そうなの…。」 「僕が好奇心旺盛でつい、警戒心解いたけど、やっぱり皆異種族は怖いんだ。」 「過去に、魔族にここも襲撃されて…」 キャロルは不安げな二人の顔を見て、そっと微笑んだ。 「大丈夫よ。」 しかし一方でキャロルはこう思っていた。 魔族魔物…邪なるもの。ステラは半分は、いわゆる邪なるものの血を引くもの。 異種族の血とはいえ何故だろうか?彼女もそうだし、魔物の中にはそこまで邪気を感じられないものもいる。 あと…私が清らかっていうのは? 私はある意味冷たい人間だと思う。 個人的な愛を注げないのだから…。 分け隔てなく平等に愛を注ぐことはできても。そうこう考えているうちにいつの間にか 長老の家に着いた。長老のすみかと言っても普通の家より一回り大きいくらいの屋敷であった。  エメラインが屋敷の扉の妖精に託をする。 すると、扉が自動的に開いた。              「よくぞ来た。封印を解く者の一人 シスター・キャロル。ワシが妖精の世界の長オベロンじゃ。」 妖精の長は…ポギーやレーシィよりもかなり小さな老人の妖精だった。 長いローブを着込み、樫の木でできた錫杖を抱えている。真っ白い髭はきれいに整えられており、人の好さそうな瞳がくるくる動く。 ヴィーニーといい勝負ね(大きさが)とキャロルは思った。 「そなたはの巫女の血を引くもの、そして大地の母なる優しさを持つもの」 「でも長老様。私は…」 「わかっておる、男女の情愛とはまた違った愛の形じゃそれは仕方ないこと。光があれば影もあるように」 オベロン長老は心得たように頷く。 その顔を拝見してから、キャロルは少しほっとした。表情が緩んだかもしれない。巫女の血を引くものと言われたことは少々気になったが。 「不都合はないんじゃろ?」 「はい。」 「そもそも魔族は影の部分として、居て 当たり前の存在なのじゃ。要は均衡を崩したことが間違いだったな。」  「長老様…。」 「勇者の両親も無意識に気付いていたのではないかのぉ…。」 ―そもそもこの世で何が善で何が悪なんて、傲慢にキリキメつけられるものではないものね…。 キャロルはそう思った。そしてヴィーニーからの用件を伝えた。 「ほほう。シルサの大魔導師じゃな…あいわかった滋養薬はたんまり渡すぞい。そなたらの分もな?」 「ありがとうございます」 「一刻も早く五元素の神々を開放し、その世の均衡を護るために勇者ともども頑張ってもらわないといかんし…特に勇者殿はとてつもない力を秘めているが、身体には気を付けて欲しいものじゃ…。」 「身体?」 確かに魔力を放出すると彼女は倒れる。 それはヴィーニーの修業で改善されるはずでは??そう思いキャロルは長老に問いかけたのだ。 「ステラの身体は…何か?」 その問いかけに長老はウォッホンと咳払いして、説明をしはじめた。 「勇者殿はここにいるエメラインと対なるもの。マレフィックスとはな…」 そしてステラについて、長老が話したことに、キャロルは聞き入った。 一抹の不安を抱えながらも。
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