ステラ

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ステラ

 ゾリアさんに魔法研究所へ連れて行ってもらい、書庫の手前で彼が託(ことづけ)を告げられたので、別れようとしていた時だった。  …レオノラさんがちょうど書庫から出てきたところだったのだ。 「どうしたの、ゾリア?」 ゾリアさんもそこそこ背が高いので私の姿は見えなかったらしく、彼が振り向いた瞬間向こう側にレオノラさんの顔が見えて、彼女と目が合った。  明らかに向こうも、どうして私がここにいるの?という感じで驚いていたようだった。 そりゃそうよね、私はシルサのヴィーニー老師の下にいるってことなのに。 「ちょうどよかった、ステラがここに用事があって、魔導書が必要なんだってさ。 俺、セシリオに呼ばれて行かなくてはならない。レオノラのほうがここ管理している からすぐわかるだろう?」 レオノラさんは、少し考えて事を理解したようで納得したように頷いた。 「…わかったわ。」  「じゃぁ、ステラ、またな☆」 ゾリアさんはまた、片目をつぶると颯爽と研究所を出て行った。 …なんかちょっと心許ない。何故か私はそう思ったのだ。 「どういう本をお探しなのかしら?」 レオノラさんの穏やかな声で私は我に返る。 私は本の説明をすると、しばらく彼女は考えて答えた。 「…さっき書棚を整理していたけどここにはないわね。」 「え?」 「たぶん、西の塔の書庫にあるかもしれないわ。」 西の塔?? 確か工事中のはずだとリーディが言っていたような。 「一階に古い書物が置いてある部屋があるのよ」 私の疑問も露知らず、彼女は西の塔への行き方を教えてくれた。 目の前の廊下を出て右に進むだけだという。 「私もあとからそちらへ向かって探すから、申し訳ないのだけど先に行っててくれないかしら?まだ片付けるものがあって。」 レオノラさんの手には3冊程の本が抱えられていた。書庫の管理も忙しいのだろう。私は頷いた。 一旦研究所を出てひたすら右へ進む。 …レオノラさん、貴族の子女だって聞いた。 ゾリアさんとレオノラさんとリーディは歳が近いから、ずっと一緒だったってフィレーン王女が言っていたわ。私もスザナというムヘーレス大陸の町に住んでいた時、友達は結構いたけど、そういう感じなのかな。  華奢で 小柄で、いかにも女の子って感じだ。私よりも年上だけど。愛くるしいっていう言葉が似合う。護られるのがすごく似合うような。それでいて知的な雰囲気も。 やっぱり王家公認魔導師なんだって思う。 彼女、私の知らないリーディのこと色々知っているんだろうな。 そう思うとなぜか、心が苦しかった。 初めてこの城に来た日、フィレーンさんに謁見したとあとに、リーディはいつの間にか いなくなっていて、しばらくしてゾリアさんと彼女に挟まれて戻ってきたんだ。それを見た時、すごくモヤモヤした。 数分ほど歩くと、西の塔に着いた。 案の定修復中だったが、本日は工事をしている職人の方は休みらしい。1階の部屋に書庫があると言われたけど…。  私はそっと塔の一階の扉を開けると、そこは大きなホールになっていた。 昔この塔は王族の居住塔で辛うじて残っていたそうだが(リーディからうっすら聞いた)、4年前の激戦の跡が見受けられる…。魔性が襲った痕跡。夥しい闘いの後…。 …本当にここに書庫があるの?そう思って正面を向くと大きな絵が飾ってある。 大分傷んでいるけれど、まだ原形は留めている。 「これって…。」 私は目を見張った。何故なら…  金髪のゆるいウェーブがかかった髪を肩まで下ろし王冠を戴く女性。  理知的な少し切れ長の瞳…すごく笑顔が優しい。その横には、髪の色以外立ち姿がリーディそっくりの男性。騎士の格好をしている。雰囲気といいホント今のリーディそのものだ。 そう、これは… 「王族一家の肖像画…(ロイヤル・ポートレイト)だ!」 私は思わず、呟いた。  その、女王と王配様の傍らに3人の王子と王女が佇んでいる。  金髪の癖のないまっすぐなブロンドを結い上げた聡明そうな少女。歳は今の私とそう変わらないほどの…あ、この方はフィレーン王女だ。  真ん中にはまだ10歳にも満たない女王様そっくりの儚げな女の子…まるで妖精のよう。髪の色は王配さまと一緒。おそらく、この子がリーディの妹のレイラちゃんだ。  そして、その肩に優しげに手を置いている女の子…?のような王子様…。 「え…?」  私はリーディと思われる金髪の王子の肖像をみて、言葉を飲んだ。 私がベルヴァンドの騎士の卵を探す大会で銃弾に倒れた時に、助けてくれた男の子そのものだったから。私より小柄で、癖のない金髪で、私は彼の発動した温かい光をまだ憶えている。  まさか、とは思っていたけど…やっぱりと今それが確信に変わった瞬間だった。 半年ほど前リーディに出会ったときは、ゲランの街で、お互い第一印象最悪で、あいつはきっと向う見ずな無鉄砲な女だと思っていたし、私は私でいけ好かないぶっきらぼうな理屈っぽい男だと思っていた。 けれどあの碧い瞳だけは懐かしかったんだ。 でも、今、彼は何も言わない。「あん時会ったよな?」とか。 覚えていたらたぶん言うはず…じゃないかって…。 もしかしたら私のこと覚えていないのかな…?そうだよね、私当時髪が短かったし、デカかった上に体型も痩せっぽちで男の子みたいだったから。 話した時間もほんのちょっとだったし。 それに私も、たった今確信持てたんだもの。人のこと言えないよ。 でもどうして…彼はあの時、あの大会にいたのだろう?出場はしていなかったわ。 おそらく観客の一人だったはずだ。 私は静かにその絵から目を逸らして、魔導書を探しに来たのだとそう思った矢先、 足音がして振り向くと、レオノラさんが立っていた。 「あの、書庫の場所が分からなく…」 「ここに書庫なんてあるわけないでしょう?おめでたい人ね。」 彼女はにこやかに、でも口調は氷のように冷たく、私は会食時に感じられた彼女の私への良くない感情を、再び感じたのだ。
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