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ヌーの未だかつてないほどの苛立ちを全身に受けてから、幾日か過ぎた。僕はまだベッドに繋がれたまま不自由な暮らしを強いられている。
子供達がご飯を持って来てくれるけど、食欲なんてあるわけない。眠れもしない。衰弱する身体と同じくユーリに会えない寂しさ悲しさで、心が引き攣れて息苦しい。呼吸の仕方を忘れたみたいだ。
( パパ、ママの服、全部持って来たよ )
( ……ありがとうソブル )
洗ってあるからあの芳しい香りはしないけど、ユーリの私物に慰めを求めてしまう。
( パパ、僕が現世の実を取って来るよ )
( ……気持ちは嬉しいけど魔樹を甘く見たらダメだよ。まだコハクには荷が重いかなぁ )
どうにか力になろうとする健気さに涙が出そうだ。思わずお願いしたくなるが、子供達に何かあったらユーリが泣く。だから絶対に許可は出せない。
( じゃあさ、あの変態に頼もうよ。守護神であるパパの同僚なんだから、それなりに強いはずだし )
( ……レイヴァンな。いや、あいつは呼ばなくていいよ )
レイヴァンがこの状況を見たら何て言うか考えなくても想像がつく。全力で笑い飛ばすに違いな
「あひゃひゃひゃひゃ! ひぃ、ぎゃははは!
面白れー格好しんてんなーガルファン」
( ごめんパパ。実はもう呼んだんだ…… )
そんなに落ち込まなくていいよ、アレッド。
友達のピンチに腹を抱えて笑うなんてレイヴァンぐらいだから。
( おちょくりに来たなら見ての通りだ。気が済んだだろ。帰れ。僕は今、レイヴァンの相手をする元気も気力もない )
「酷いなぁ、せっかく助けてやろうと飛んで来たのに……ん? へーなるほどなるほど。マジでヌーの奴、容赦ねぇな。身体も魔力も超難解な術式で抑え込まれているじゃん」
しげしげと僕を眺め回さなくとも、かけられた自分がよく分かっていた。これは竜の本能を持ってしても解けない。戒められてから途切れ途切れになっている記憶……無意識で理性を手放していた事実があるのに、僕はこうしてベッドの上なんだから。
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