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( パパ、パパ起きて )
薄っすらと持ち上げた瞼。
ぼやける視界に子供達の顔が見える。
ああ、泣き疲れて寝てたのか。熟睡なんて出来ないから少しばかり意識が落ちていただけだろうけど。
( 連れて来たよ )
( ……誰を? )
( 変態が言うには秘策なんだって )
( 老いぼれの割に暴れるからさ、三匹がかりで取り押さえたよ。尻尾でど突き回したから少しだけ容姿が変わったけど……この人で間違いないよね? )
コハクの口元にぶら下がる何か。
何かとは……小さな物体と化したご老人だ。
( コハク……離しなさい )
ドサリと僕の上に落とされた肉塊……もとい、強欲ジジィ、もとい……ユーリの願いを叶えてくれたおじーさんじゃないか。
どうしてここに……? と聞くまでもない。
レイヴァンに余計なことを吹き込まれた子供達の仕業である。顔を三倍ほど膨らまし、痛みに呻き声を上げている。
( おじーさん、ごめんなさい。大丈夫ですか? )
「……っぐ、だ、大丈夫なように見えるなら、お主の目は腐っておるぞ。っ、痛い」
( ソブル、回復魔法をかけてあげて。アレッドは僕に説明を。コハクはお茶の用意を頼むよ )
何度も茶器が割れる音をバックミュージックに、おじーさんと一緒にレイヴァンの秘策とやらをアレッドから聞いた。
良いのか悪いのか秘策を授けた当の本人は、言うだけ言って帰ったそうだ。頭脳派は行動しない。実行部隊はお前らだ。という、変な括りの元に。たぶん、おじーさんの報復を恐れて逃げたのだろう。
店から拉致しろなんて最低だ。
意味も分からずそれに従った子供達には、後できつく叱っておかねばならない。
あくまでも後で、だが。
今は期待に満ちてそれどころじゃないのだ。
( それでおじーさん。レイヴァンの秘策は叶いそうですか? )
「出来ない事もないが……時間はかかるぞ」
( 最短でお願いします )
「簡単に言うな。只でさえこちらから異界に渡るなど前代未聞の上、お主の身体まで変化させねばならんのだぞ」
( いくらかかってもいい。おじーさんの言い値で買う。当然、値引きも要求しないから )
ただし、払うのは僕じゃない。
女王に請求書を回すつもりだ。
交渉はサクッと綺麗に纏まった。
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